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試乗レポート
更新2023.11.22
悩ましいプレミアム。DS4 クロスバック ディーゼルの試乗レポート
中込 健太郎
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プジョーといえばかつて504などディーゼルのイメージの強い車種もあり、相当早いタイミングで高性能にも力点を置いたモデルがシトロエンCXなどにありました。メルセデスなどと並んで、ディーゼルエンジンのいいクルマを多数輩出してきたメーカー、それがプジョーでありシトロエンなのです。
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(私見だが、シトロエンは秋の季語だと思っている。ひんやりとした空気につい窓を開けたくなるから不思議である。)
そして今回は排気量でも二種類を用意、C4ピカソだけ少しチューニングを変えていて3種類のエンジンが国内に上陸するとのこと。ディーゼルエンジンの魅力はと聞かれたら、もちろん熱効率の高さなど科学的にも幾多ものメリットがあるのがディーゼルエンジンです。しかし、そういう小難しいことは抜きにしても、「とにかく遠くまで出かけてみたい」。ロングドライブに適した低回転からの自在なトルク重視型の出力傾向と、低燃費で躊躇なく出かけられるということではないでしょうか。
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今年のフレンチブルーミーティングを取材した際、何かフランス車を試乗できないだろうかと思っていたところに、お誘いをいただいたので、DS4クロスバックに2リットルのディーゼルエンジンを搭載したモデルで出かけることにしました。その時の印象を少しまとめておきたいと思います。
うーん…いただけない外観
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私見ですが、どんなに温情採点、ひいき目に見てもこの外観はちょっとない。ないというかさみしい。これが私の第一印象でした。
まずはDS4クロスバックというクルマに関して。C4をベースに「4ドアクーペ」と謳うDS4のクロスオーバー風に仕立てられ、車高少し上げたモデルがDS4クロスバックです。まあ、今風です。流行に乗ったのかしら。そのあたりも日本人的にはなんだか昔の孤高のスタンスが希薄になった印象を受ける元凶になっているのかもしれません。しかし、あらかじめ申し上げておきたいのですが、クルマとして全然ダメという結論に至ったかといえば、今回このクルマ、もし350万円前後でさほど大きくない、しかしロングツアラーを選ぶとなったときに、かなりスータブルな一台。ことと次第によってはマイカーにしてもいいと思うほどすこぶるなじみ、最終的には甚く気に入ってしまったというのが結論であります。
だから、こんな私の個人的第一印象などどうでもいいのです。そもそもアウトモビリ・シトロエン(DSDSと騒いだところで、このクルマの車検証上の車種名はシトロエンであります!)は今までにも醜いクルマをことあるごとに作ってきました。それに比べたら、ずいぶん穏便なほどではあるのです。それでもこのクルマのデザインはなんだかなあと思ってしまうのです。強烈にひどいデザインではないのです。しかし、それがむしろ問題だと思います。特にフロント回り。どこかで見たことのあるようなモティーフ。全体のフォルムに比べて、押し出しが弱い。バランスがイマイチなのかもしれません。
まあ、そうは言っても、シトロエンに言わせたら「皆さんは個性的なクルマ作りとかおっしゃいますが、我々からしますと、あれ以上ない、私たちの考えるきわめてオーソドックスなクルマしか作ってまいりませんでしたが。どうしたらあれ以外のクルマを作ることができましょう。」くらいうそぶかれる可能性は十分ありますから、少し割り引いてというか、わきまえて考えておく必要はあるでしょうが。
外観はどうでもいい、乗ればわかる懐の深さ
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そんな思いを抱きながらクルマに乗ってみます。たちまち印象が変わるので、正直食って掛かるような外観に対する自分の抱いた第一印象にあからさまに猛省してしまうほどでした。まず、ドライビングポジションがしっくりきます。自然な姿勢で腰を下ろすと、そのまま手を前に伸ばしたところに、ステアリングがある。ステアリングに手を添えればそれで運転姿勢をとることができる。「ああ、これこれ」かつて所有していて、手放したことを後悔している、BX16TRS。あの時の感覚が呼び起こされるかのようです。
以前のC3では、ゼニスウィンドウと呼ばれた、大きめのフロントウィンドウで、頭上の視界が調整できるタイプのルーフは、実質的な解放感に関してはサンルーフ以上でしょう。これも実に気持ちがよい。こうしていざ出発しようか。旅にいざなうのです。そうそう、これがシトロエンのやり方、手法ですよね。DSなどと標榜して全く知らないことを矢継ぎ早に提示されるのでは困ってしまうけれども、実はこういう根柢の流儀、運転席に座った時のマナーというか節度というべきか。そういうものはいたって普通。というか「従前のシトロエン」で安心した部分でありました。
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その意味ではややとんがったエッジの効いたクルマという印象でしたが、あるべき姿のオーソドックスなメッセージはしっかりと随所に残されている。DSのシリーズに対する理解も少し深まった気がします。
ディーゼルエンジン、アイシンの6速オートマ添えの珠玉
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(買うなら赤だろうか。フレンチブルーミーティングではプジョーシトロエンのブースで展示された。)
いよいよ車山に向けて出発です。町田街道を抜け高尾から圏央道経由で中央道へ。トルクがあるので町中の道でも扱いやすい。しかも、オートマチックとの相性は抜群。たっぷりとしたトルク曲線の稜線上をあますことなく目いっぱい使いきるような、おおらかさがあるのです。最近ではマツダがアクセラにGVC(Gベクタリングコントロール)を装着した例などもあり、とても濃密に感じることとして、このトルクの伝わり方が実に重要で、シトロエンは昔のモデルから「要はその部分の番長」だったということができるのではないでしょうか。
DSなんかもあの大柄なボディを、お世辞にもプレミアム感皆無のエンジンでものすごい勢いですっ飛んでいく。さすがに登りは正直になりますが、平地と下りでは自動車工学の常識外のことが起きているかのような俊足とドライビングプレジャーがそこにはありました。よく地面を掴むと表現する接地がありますが、それだけでは不足であり、シトロエンの場合、路面と「呼応している」と表現するほうが近いかもしれませんね。追従もするし、折り合う場合も折り合わない場合も、クルマが判断し、結論としてはクルマの事情に合わせて乗り越える。
マツダのGVCは秀逸ですが、あれは、クルマでメーカーがやることとしてはシトロエンがずっとやってきたのと同じ領域の味付けなのだと個人的には思っています。そしてその重要性をマツダはわかっているという証でもあり、あれのついたアクセラでも京都を往復しましたが、「こんなに打てば響くようなハンドリングだなんて」と目から鱗の思いがしたのはまだ昨日のことのようです。
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こんな分厚く大きなタイヤをはいていながら、要は、つまるところ、ハンドリングはとても楽しい。夏かき氷でもおいしいのは大きな氷を削り出していますね。氷の塊を回して、それにカンナのようなものを充てるように削り出すと、限りなく融点ギリギリの氷が、ふわふわとした触感とともに優しく口溶けしていくもの。そうすると氷の本来の味、水のうまみ、甘みなどさえも感じ取ることができる。
他愛ないような、しかしなかなか奥の深い食べ物だと思いますが、シトロエンでちょっとしたダウンヒルをする(というと何かすごいことをしているようですが、皆さんの近所にもきっとあることでしょう。カーブの連なる下り坂、きりっどおしのようになっているかもしれません。そこを下った時の話です。)と、ハンドルを切った時にカーブから受ける感覚が、あの氷をかく時の手に伝わってくるようなシャープな感覚ににていて、一方そんなハンドリングからもたらされるカーブの超え方、結果が、あのふわっとまとまりのいい、何にも邪魔をさせまいとするかのようなかき氷の味わいに似ていると思うのです。
素朴ながら世界がある。そんな氷に似て、当然そうあるべきであるかのようにふるまいと、筆舌に尽くしがたい、臨界点を超えたところに独特のバランスするポイントがある。そんなシトロエンの世界観には共通点を感じるのですが、このクルマにもそんな関係の片鱗を感じたのです。
シトロエン愛好家「シェブロン派」とでも申し上げましょう
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(このフロントウィンドウは気持ちが明るくなる。そしてパノラマ特急の先頭車にかぶりついた時のようなパノラマ。近所の買い物でも楽しくなる。)
あれがないこれがないといえば、ないものもいろいろあります。そんな状態でプレミアムを標榜するなんて、とお叱りをもらうこともあるかもしれません。しかし、一見俗物に下野したような、既視感を感じるデザインディテールや、流行に乗っかったかのような腰高なクロスオーバースタイルを侮ってはいけません。見くびってはいけません。このサイズで、相当の距離を走ることもあって、エレベーター式駐車場の全高規制は気にしなくていいという方には、もしかすると、相当しっくりくるチョイスだと感じる方がいても不思議ではない、どころか「実際問題これがいい」という人はかなりいるのではないかと思うのです。
シトロエン愛好家「シェブロン派」とでも申し上げましょうか。そういった方々にとって実は一番の死活問題は「いいものを見落とす」ことなのではないでしょうか。ハイドロじゃないなんて、昔のほうが好き、エグザンティアが頂点。そういう個人的な主義趣向を否定するつもりもありませんし、その考えにも賛同したい部分は少なくないのです。しかし、今どきのクルマのなかで、依然として「わからない人には薦めないが、なかなかいい」と思えるクルマが今もあったことに、大人げなくうれしくなったものでした。そして、嫌なのは、こういうことをうっかり見過ごしてステレオタイプな言論に溶けていく「シェブロン派」のみなさんを見ること。
ハイドロニューマチックサスペンションの技術を見限ろうとする残念なシトロエンの何倍も残念なことだと思っていたので、これはぜひ教えてあげたいと思ったというのがこのクルマに乗って感じた感想でした。その愛車に胸を張って乗り続けていただきたいから、もし機会があれば、お乗りいただきたいと思います。なんだか最近はつまらんな、と思ったとしても、そのあたりの凡百の同党のクルマに対してはやはり秀でた部分、私は感じることができました。
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(ステアリングを切った方向を照らす仕組みは昔からシトロエンは装備していた。今ではさ程珍しくなはいが、だからこそあってうれしくなる装備だ。)
もう一つ個人的に感じた事を告白するとすれば、それは現代のシトロエンにおけるディアーヌのような存在ではないか、ということです。あの2CV程のかわいげもなく、それより大型のモデルほど異彩を放つこともない、なんだか中途半端な車だなあ、と図鑑や雑誌で見たときにはそう思っていたディアーヌ。いざ乗ってみると、2CVよりも少しずつ常識的なクルマに仕上げたことで、乗ると実ににちょうどいいと感じさせるクルマ。
そんなはずはないのだけれど、「免許を取るずっと前から乗っていて、もしこのクルマのオーナーになったら、金輪際ほかのクルマは乗らないかもしれない。」そんな刹那にさいなまれるほどの強烈な中庸を秘めた一台。そのさじ加減の絶妙さこそシトロエンの本領発揮といえるのかもしれません。それこそ、フレンチブルーミーティングでオーソリティの方に教わったことですが、パナールのエンジニアで、シトロエンにそのまま籍を移したエンジニアの仲間が最後に好き勝手作ったクルマなのだそう。それはさじ加減に狂いがあるはずがないですね。
DS4 クロスバック ディーゼル、結構好きになってしまった
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せっかくディーゼルに乗ったのに、エンジンはどうだったのか。ですからトルクフルで扱いやすく、音も振動もよく抑えられているいいエンジンです。昔からプジョーシトロエンのエンジンは、どれも味の好き好きはあっても、官能的で惹かれるという種類のものではなかったはずです。そのやり方で、そのていで、同様にいいエンジンだということです。それでも燃費の良さはさすが。570キロほど車山のワインディングを二日間通ったり、積極的に走りこむような使い方でどうにか35リットルを飲み込む程度。リッターあたり16キロ程度。丁寧に乗ったらもう少し実用燃費も改善するでしょう。したがって航続距離を調べるには「嫌だけどもう一度拝借しないと仕方ない」というやつですね。さあ、どこに行こうか、楽しみになります(笑)
しかし個人的には感心させられる部分も多かったのですが、これをシトロエンに乗ったことのある人、知らない人に、その素晴らしさの核心を気づかせることはなかなか一筋縄ではいかない。そう感じたのです。この「プレミアム」はとても悩ましい。そう思わせられる、そんなクルマでした。でもイニシャルで浮足立つようなクルマではないが乗ったらなかなか見どころのあるクルマだというのはどういうことかわかりますか?「キケン」だということです。このクルマさほど大きくないし、トルクフルなトルクコンバーター車。小粋なキャンピングトレーラーでも引いたりしても、なかなか楽しそうではないか。返却が名残惜しいばかりか、いろいろ妄想を掻き立てるのだからなかなか始末が悪い。そんなDS4。活動拠点を田舎に移すなら、大いに選択肢になりそうな一台なのです。
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いいな、このクルマ。結構好き、気に入ってしまいました。
[ライター・カメラ/中込健太郎]