試乗レポート
更新2023.11.22
「2CVとDSの間のさじ加減」1973年式シトロエンAMI8に試乗する
中込 健太郎
後ろ髪を引かれるような。なんとも言えない粘りがあるというか。ヨーロッパの1000cc以下のクルマの楽しさを知ってしまうと、なかなかそれを凌駕する楽しみのクルマ、なかなかないものです。そう言い切ってよいほど、ハズレがありません。クルマとして色々飾り立てるものが何もないからこそ、クルマとしての根源的な価値、魅力が際立つのかもしれません。根本的には2CVをルーツに持つシトロエンAMI8。このクルマに試乗させていただく機会をえました。ちょっとその試乗した感想をまとめたいと思います。
実はこのクルマ、昨年夏にマセラティ・ギブリを駆って山口県美祢市まで、ジャズとバレエのコラボレーションを観に行く旅に出ました。その時彼の地美祢で私を出迎えてくれた、イベントの主催者伊達実さんのおクルマなのです。今回整備を機にクルマが上京するというので、そのタイミングで伊達さんのご好意で乗せていただくことができました。
▲昨年ギブリの試乗を兼ねてお邪魔した秋吉台国際芸術村で一緒に
綺麗なターコイズブルーのボディ。中に乗り込むと、そこはれっきとした「サルーン」の世界。高級車とまでは行かないまでも、「一人前の自動車」のていをなしています。窓には開閉用のレギュレーターハンドルがあり、2CVや先だって乗ったディアーヌとは一線を画す作りです。
キャブレターの交換など、一式整備をしたAMIは確実に一発でエンジンを始動させるコンディション。もしかすると、一応インジェクション仕様の小生のマセラティ430よりも確実に始動するのではないか。そう思うほどでした。
左に寄せるようにして手前に引くと1速、そのまま奥に押すと2速、まっすぐ手前に引くと3速、少し外側に反らすように押し込むと4速。ダッシュボードから球が飛び出したようなシフトレバーは、しかし何度乗っても手になじみます。これこそが理想的と思わせるくらいしっくりくるのです。今時のクルマに負けないというと言い過ぎですが、第二京浜でも臆することなく走ることが出来、全く不足で怖い思いをすることはありません。
どうしたことでしょうか。心持ち乗り味がスポーティーな印象です。スペック表に現れない味付けの違いを見せるのがシトロエンは実にうまい。常に感心させられます。クルマの躯体がよりカッチリしているからでしょうか。そして走り始めると極めてフラット。例によって大きくロールするカーブでの姿勢も、しかし積極的にカーブに切り込んでいきたくなるような独特のキャラクターもあり、和やかながら、とてもキャッチーなクルマです。ありとあらゆるクルマを乗りつくした後に、こういうクルマこそアガリのクルマなのかも。そう思わせるクルマでした。
小さなクルマは東京まで山口から陸路走ってきたということ、はじめはちょっと信じられませんでした。申し訳ないですが、やや派手に広げたネタ話かと思ったのです。しかし1日このクルマとともに過ごしてみて。足りる足りないではなく、「もっと遠くまで走っていたい」。とにかく欲求が先に立つ、そんなクルマでした。最高出力でとどまるところを知らない、そんな印象のAMI8、理想の「アガリグルマ」候補を見た心地がしたのです。
▲引き戸ではなくレギュレーターハンドルで回すタイプの窓。2CVよりだいぶ現代の自動車に近づいてくる
まあ、アガリグルマという概念自体が、実はないという話に先日あるところでなったりしましたが、これに関してはまた別の機会にでも。クルマ趣味は実に果てしないですね。
▲つまみを回すとドアが開閉します。最小限の仕組みで最大限にエモーショナル。このノブを回すたびにちょっとした異文化覗くような気持ちになる
小さなクルマでよく東京まで。はじめそう思った私でしたが、そのまま山口の伊達さんのお家までお届けに行きたいような、そんなクルマでした。なんでも今月末に改めて東京まで引き取りにいらっしゃるのだとか、ぜひ楽しいドライブになるといいなと思います。
下の写真は世界的にもなかなか見ることのできない光景でしょう。1930年製のシトロエンC6。崖の上の草むらに覗くのは、当時親会社だったシトロエンが傘下のマセラティに製作させたSM用のエンジンとアシ、その他ハイドロのマネジメントシステムを持つGTカムシン。ちなみにこのC6は一説によるとアンドレ・シトロエンが乗っていたクルマそのものだというのです。そんなクルマたちの中で微笑むAMI8。
<取材協力>
アンシェントホテル浅間軽井沢
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