試乗レポート
更新2023.11.22
EV車に転生したチンクエチェント、思わず「すばしっこい!」と言わずにはいられない!
中込 健太郎
自動車関連のイベントは少しずつ復活の兆しも見られるようですが、なかなか以前と同じとはいかないようです。だいぶ慣れてきたとはいえ、やはり寂しい限りです。自動車関連のイベントは野外中心で、比較的「蜜になりにくい」面もありますから、今年は中止になったイベントも、また復活、再開されるといいなと思う次第です。
▲チンクエチェント博物館までは筆者の積載車でドライブ。軽量コンパクトなクルマは跳ねて気を使う。フロントは左右均等に真正面から固定し、リヤもリーフを固定するように真下に向けて固定した
さて、そんななか、チンクエチェント博物館から比較的緊急の搬送の相談をいただきました。ルパン3世の劇中にも登場し、その愛くるしい姿も手伝って、クルマ好きばかりでなく、老若男女を問わず幅広い層から親しまれているフィアット500。 なかでも非常に珍しいボディタイプや年式のモデルなども収蔵しているのがチンクエチェント博物館。最近では常設の一般公開のスタイルをやめて予約制に変更。また、一度自分でも実際に乗ってみたいという人に、その幅広い知識、コネクションを駆使し、実際に展示車をみながら「こんなチンクエチェントに乗りたい」という要望に応えて車両をマッチングしてくれるサービスをメインに展開しているのがチンクエチェントミュージアムです。
そのラインナップのなかにはチンクエチェントをEV(電気自動車)にコンバートしたものもあるのです。今回、急なスケジュールのなか、都内から名古屋に至急移送したいというご相談をいただきました。ちょうど近々で動けるタイミングがあり、すぐに話は纏まって名古屋までの搬送をお手伝いすることになったのでした。
■旧車をベースにしたEVの理想的なカタチ?
▲あくまでもチンクエチェントからの車窓。現代車のそれとはやはり異なる
最近、自動車の将来のことを考え、旧車を電気自動車へとコンバートする話をしばしば耳にします。駆動系のパーツが入手困難な場合などもあり、そうしたことも解決できるという点においても、確かに一つの方法かもしれません。ただ、どこか違和感を覚えるというのが筆者の正直な感覚です。旧車の価値は昔作られたままのボディが単に動けばいいというのではなく、そのエンジンや駆動系も当時の部品を使って走っているからこそ価値があると思うのです。その点、まだ普通にオリジナルの仕組みで走る・止まる・曲がるができるクルマをEVにしてしまうのは、どこか勿体無いというか、惜しい気がしてしまうのです。
もちろん、オーナーの考えもさまざまでしょうし、むしろEVに乗りたくて、その素材にこのカタチ・雰囲気のモデルを用いたいと思うこともあるでしょうから、いけないことだ!とか、絶対反対!とかまでは思わないのですが。
ただ、一つこういう方法でありなんじゃないかと思うこともあって、それは、もうそのまま朽ちて土に帰ってしまうのを待つばかりになっていたクルマを引っ張り出してきて、レストアしてリフレッシュ。再び陽の目を見るに際にEVとして復活。これは大いにあり、賛成だと思うのです。なんせ、何もしなければ、路上を走ることのなかったチンクエチェントが路上復帰できるわけですし、確かに、排出ガスを出さないカタチでの復活自体は悪いことでもありませんし。そして、もともとパーツは比較的豊富にあって、リプロダクションの新品でさえまだ手に入るのだとか。むしろ、チンクエチェントを何らかの形で利用するユーザーが増えることは、そうした環境を維持し、さらに再販再生産する環境にも貢献できるからです。
▲このクルマはプロトタイプなので実際の生産型ではもう少し変わるかも、とのこと。しかしあくまでもシンプル。インパネのメーターはバッテリーの残量計
ちなみに、朽ちかけたチンクエチェントをイタリアにいる職人さんがレストアして起こしてくれるというスタイルは、チンクエチェント博物館が紹介するクルマ(チンクエチェント)すべてに言えることで、エンジンのタイプを購入してもそうした流れがとられるそうです。そういう職人さんの仕事を支援し、後継者を育てるといった観点でも大切なことだと思います。
■そもそも、チンクエチェントはEVに合っている!!
名古屋に到着するともうすっかり日が暮れてしまいました。代表の伊藤さんが車庫にしまう前に「一回りします?」と誘ってくださって、ちょっと名古屋の街をチンクエチェントのEVでぐるりとドライブに出ることになりました。
この前のモデルなんかトッポリーノなんて愛称で呼ばれていたりしましたが、やはりネズミのようなイメージがついてまわるクルマだと思います。もちろん軽量で仕組みがシンプルというのもEVのベースとしては好都合だったというのはあるのかもしれません。しかしそんなことどうでも良くなるくらい走ると「ますますネズミ!」のイメージなのです。シューン!とギヤの音でしょうか、高周波のEVの音もしますが、基本的には静か。しかし「すばしっこい!」という言葉は何年ぶりに使うでしょう。まさにそう言いたくなるような俊敏さがあります。現行のアバルト595などと比べてそれよりも俊敏かと言われればそこまでのことはないかもしれません。でも、そのなりのクルマにそれは求めないでしょうし、その割には十分に身軽なわけです。
あと、丸いヘッドライトは正義ですね。愛嬌がやはり抜群です。「無邪気だ!」とも評したくなります。
▲チンクエチェント博物館の伊藤さんのドライブで名古屋の街をひとまわり。秋の夜はオープンカーが最も気持ちの良い時期かも。そして相当にすばしっこく小気味よい
今の常識からすると驚愕の小ささを誇るボディ。朝の通勤通学時間帯はバス専用のレーン、ちょっと停止しているようなクルマを交わすのも造作ありません。そんな航続距離も長くはないそうですが、今オーダーすると80キロメートル程度の航続距離は確保できるそうです。そのくらいあれば十分ではないでしょうか。理想的なシティコミューターカーとして、ちょっとした移動手段、うちに帰ってきたら、軒先きのスペースで充電しておく。最近ではソーラー発電や充電装置で再生可能エネルギーを利用しているお家も増えてきました。
大都会をすばしっこく走り回るネズミのようなチンクエチェント。降り注ぐ太陽の力で充電できます。そんなことを思い描いていたら、むしろあり。それどころか、このクルマを今の今まで作り続けていたとしたら、こんな仕様も生産されてるかもしれないなあ。そんな気さえするほど、おとぎの国の乗り物のようでありながらも極めて現実的な提案を内包した一台。そんなふうに感じさせるクルマでした。
▲充電中は助手席前のグリーンのランプが点滅。演出のせいでどこか未来的でさえある
■オートマ限定免許でも、あの可愛いチンクエチェントと一緒に暮らせることが最大のアドバンテージ
多くのチンクエチェントは、ガバッと屋根を開けることができます。せっかくなのでお天気の日は屋根を開けておきましょう。しかも信号で止まれば、静寂そのもの。風の音も、鳥の声も聞こえます。都会の喧騒さえBGMに聞こえます。何しろ、窓から見る景色は他のどんなクルマからのそれとも違うのです。名古屋の街の景色も、EVとはいえ、チンクエチェントから見た景色になります。そういう意味では、チンクエチェントでドライブしなければ味わえない楽しさというのはやはり結構多いなあと思いました。こうした傾向は小さな車であればあるほど大きいのかもしれません。
そうは言っても、チンクエチェントを持つとなると、キャブレターですからエンジンをかけるのにもコツが要ります。気を使いますね。そして何より、オリジナルのチンクエチェントはマニュアル車しかありません。最近は男性でも多い「オートマチック限定免許」のドライバーの方もこのクルマは運転できるのです。この辺りも、時代が変わっても「みんなに親しまれるクルマ」という立ち位置を守っていますね。
オリジナルのボディベースではありますが、ボディの仕上げを初めからしたりもするので、新車をオーダーするように仕立てられるのも実に素敵なことだと思いました。
旧車の楽しみ方として、電気自動車として、ではなく「クルマの選択肢」としてありなのではないか?そう思わせる素敵な一台との素敵なひとときでした。
▲乗れば乗るほど懐かしいし、走る姿もすばしっこく愛くるしい。充電中も軒先でどこか愛おしい。そんなEVはなかなかないかもしれない
■チンクエチェント博物館について
〒467-0872 愛知県名古屋市瑞穂区高辻町14-10TEL : 052-871-6464 FAX : 052-882-1105
https://www.museo500.com/
プライベート博物館のため、事前にEメールにて来館予約をしていただいたチンクエチェント好きな方に限り来館受付させていただきます。
※ご来館希望の方は、こちらよりメールにてご連絡ください。
https://www.museo500.com/contact.html
来館可能日時:火曜日 〜 日曜日【11:00 〜 16:00】
[ライター・画像/中込健太郎]