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ライフスタイル
更新2019.12.26
ドイツに行って「なぜこの国ではクルマがこれだけ大切にされるのか?」を全身で感じてきた
長尾孟大
*前回の記事はこちら
https://current-life.com/life/difference-the-two-values/
1.ドイツに行って「なぜこの国ではクルマがこれだけ大切にされるのか?」を全身で感じてきた
今回の記事では、「なぜドイツではクルマがこれだけ大切にされるのか?」について、実際に訪問した「VWアウトシュタット」や「メルセデス・ベンツ・ミュージアム」での体験を踏まえ触れていきたい。
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▲メルセデス・ベンツ・ミュージアムに展示されていた300SL
2.VWアウトシュタットとは?
ドイツには「VWアウトシュタットという街(直訳するとクルマの街)」があり、そこはVWの城下町なのだ。しかもVWがその地域をまるごと設計しており、そこに本社や工場、テストコースに加え、今回訪れたミュージアムなどが集約されている。実際にその街を走っているクルマのほとんがVWグループ関連のモデルであった。
アウトシュタットは、世界一の自動車メーカーが創った街なのである。
さらに付け加えると、アウトシュタットには一般開放向けのテーマエリアがあり、一日平均で約6000人もの人々が訪れ、500台の納車式がおこなわれるという。そして納車式の前夜にここアウトシュタットに泊まれるよう、テーマパークにはハイアットグループのホテルすらも隣接しているのである。まるでクルマのディズニーランドのようだ。
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▲左手奥アウトシュタットの工場と各パビリオン
3.東京ドーム約5個分のVWアウトシュタットに点在するパビリオン
アウトシュタットの総面積は約25万平方メートルで、東京ドーム約5個分とかなり広い。
ちなみにディスニーランドは東京ドーム約11個分なので、ディズニーランドの約半分のサイズとイメージしてほしい。
テーマパークとお伝えしたが、この敷地内にはVWグループ傘下のフォルクスワーゲンをはじめ、ベントレー、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニ、ブガッティ、VWキャンピングカー、そして日本ではあまり名なじみないセアト、シュコダのパビリオンが点在している。それに加えて、飲食店やお土産ショップ、子どもの遊具広場のあるメインホールと、VWを問わず、歴史的な名車を展示する自動車博物館のタイムハウスがあるのだ。
これらのパビリオンで面白かったのは、クルマの展示と聞いてイメージするようなクルマが展示されているわけではないということである。かといって、モーターショーのように華やかに飾られているわけでもない。あくまでもコンセプトに基づいたパビリオンとして完成しているのである。
例えば、ランボルギーニのパビリオンであれば、建物に入ると真っ暗な部屋に案内される。「なにを見ればいいの?」と戸惑いながら待っていると、突然、爆音や大量とともにスモークのなからランボルギーニの走行シーンの映像が現れる。巨大スクリーンに映し出されるスモークのなかをランボルギーニが爆走する。本物以上の迫力だ。
そして、映像の最後にスクリーンが回転して、本物のランボルギーニが突如目の前に現れる…といった仕掛けだ。
この迫力と興奮を読者の方にお伝えするだけの文才が伴わず何とも不甲斐ないのだが、ここでは伝えきれないほど、心を揺さぶり、記憶に残る演出であった。周囲のギャラリーも、老若男女問わず大興奮だった。
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▲ランボルギーニパビリオン内のスクリーンに映し出された走行シーンの映像
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▲映像の写っていたスクリーンが回転し、本物のランボルギーニが現れる瞬間
こういった具合に、ブランドごとのコンセプトを体現しているのがパビリオンである。さすがにアトラクションになっているのはランボルギーニだけであったが、どのブランドも世界観をその場全体で表している。これこそが自信の成せる業なのか、これらのパビリオンには看板やブランドロゴが付いておらず、外側からはなんのブランドなのかがわからない作りになっているのだ。
このあたりは、メーカーとしての自信の現れと、「先入観なしに自分たちの世界観に触れ合ってほしい」というメッセージを感じた。
4.アウトシュタットが提供する体験価値
そしてここで一番印象に残っているのは“みんなが楽しんでいること”だ。
クルマが好きか否か?は問わず、その場の世界観やコンセプトに触れて、その非日常性にギャラリーが魅力を感じ、楽しいという感情を抱き、最後に記憶に残るのは“VW”と“クルマ”というキーワード、といった感覚である。
「このテーマパーク楽しかったね」「そういえばここってVWがやってるんだね」「クルマのテーマパークだね」といった具合だ。つまり、目的は「楽しく世界観を伝えること」であって、クルマはあくまでその手段でしかないのだ。そのような思想だからこそ、子ども連れや、男女のカップルが楽しく歩き回れるような場になっているのだろう。
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▲アウトシュタット内のポルシェパビリオン
5.メルセデス・ベンツ・ミュージアムとは?
次にご紹介したいたいのが、メルセデス・ベンツ・ミュージアムである。
ここはメルセデス・ベンツの本社があるシュトゥットガルトの街中にあり、サッカースタジアムなども併設されている。
筆者が感じるに、このミュージアムのコンセプトは「クルマの歴史と人類の歩み」に重きを置かれているのではないかとおもう。
VWとはまったく異なるテイストで、一つの世界観の建物しかなかったが、だからこその完成度の高さがあった。
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▲メルセデス・ベンツ・ミュージアム入り口手前の広場
まず入場した後には、まるで宇宙船のようなカタチをしたエレベーターで最上階にタイムスリップする。すると扉が開き、一番最初に目に入ってくるのは“クルマ”ではなく“馬”だ。
これはメルセデス・ベンツが馬車を重要視しているからではないかと思う。元々メルセデス・ベンツは馬車に原動機を持ち込んだのがその歴史のスタートである。そこへの敬意の表れなのであろう。
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▲エレベーターを降りて最初に現れる白馬
歴史順に並べられたクルマは階を下るごとに新しくなっていき、最初は馬車だったのが、すこしずつ僕らの知っている世代のクルマになっていく。これだけ古くから自動車を作っているという歴史が、現在の自動車メーカーとしての完成度に差を生んでいるのかもしれないと、思わず考えてしまった。
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▲1800年代につくられた初期のクルマたち
6.メルセデス・ベンツ・ミュージアムがもたらす「場」の完成度
そしてここでも感じたことが、ミュージアムの完成度の高さである。
完成度が極めて高く、クルマに興味がなかったとしても、人間が本来持っている感性を刺激するほどである。すこしでも芸術や美術的なものに対して、興味がある人間なら、そこに置いてあるクルマに興味を持ってしまうであろう。
これはVWでも感じたポイントであるが、美しい空間のなかを構成している一部にクルマが存在しているのである。
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▲女性でも興味をもってしまうような美しいフロア展示
だが、実際にクルマは本来そういうものであろう。
筆者の場合、生活や人生計画の中心にクルマがあり、そのまわりに他の生活やキャリアといったものが存在しているが、そんな人はごく一部に違いない。
筆者はCarkichiの活動のなかで、クルマを「生活の一部」としての描いているが、ここでは歴史と人類の歩みというもっと大きなスケールのなかで、クルマやメルセデス・ベンツというものが表現されていた。
7.VWアウトシュタットとメルセデス・ベンツ・ミュージアムの共通点とは?
ドイツでVWアウトシュタットとメルセデス・ベンツ・ミュージアムを訪れた感想は『クルマに興味がない人でも楽しめる場として完成度が高い』ということである。
どちらも異なったアプローチでクルマを表現しているものの、それぞれの方法でその空間を構成し、人間の五感にダイレクトに訴えかけてくるものがある。それを通じて自動車メーカーの描くコンセプトや、自動車が誕生して以来つくられてきた歴史、そして、そのクルマのある生活の魅力を生身で体験することができるのだ。
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この体験は、本やWebで文字を読んだり、コンセプトムービーを視聴するよりも、純度が高く伝わるし、クルマに興味がない人でも理解しやすい。
そして、なによりもクルマに興味がない人間が、興味を持つキッカケになるのだ。
海外のとても綺麗な景色を見たときに、ここは何処なのだろう?一度で良いから行ってみたい!と興味を持つだろう。
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まったく興味がなかった人が、面白そう!と思わず気になってしまう。
そんな感性に訴えかける体験を創造することが大切なのだ。
クルマの文化を継承する上でとても重要なヒントが、ここに隠されていたように感じる。
クルマの持っている深みは、魅力は何なのか?
それを伝えるには、感性に訴えかける完成された世界観がもたらす体験が必要なのかもしれない。
改めてクルマの魅力を伝える場づくりの重要性を感じたドイツ旅行であった。
8.2つのミュージアムから改めて感じた「場」の重要性
筆者は人生のなかで人との出会いをもっとも大切にしている。
「人が、一番のエネルギーをもらうのは人から」だと思っている。
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クルマというのは、人と人を繋げるエネルギーに長けているとおもう。
クルマといると、筆者のような若者にとっては仕事では会えない人と出会う、ワープしたような瞬間がある。その瞬間に新しい目標とそこに向けてのエネルギーを得られることがあるのだ。
今回の旅で改めて感じたコンセプトの重要性と世界観の作り込み。
これらを徹底することで、Carkichiでは“大人”たちがオフの場としてこれて、そこで出会った“若者”とつい話が弾んでしまう。そんな人と人を繋げる仕掛けの沢山ある場を作りたい。
そしてその仕掛けとして人と人の間にクルマがいたら最高の喜びだ。
[ライター・カメラ/長尾 孟大]