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更新2020.08.20
人気は透過率21%?カーウィンドウフィルム回想録
松村 透
知人の紹介で、東京都内にあるウィンドウフィルム施工店でアルバイトをすることになり、遠くから眺めていることしかできないような輸入車に触れる機会が不意に訪れました。当時のエピソードを思い出しつつ、「カーウィンドウフィルム回想録」と題して、2回に分けてお届けしたいと思います。
志望動機は「クルマが好き」。本当は「憧れの輸入車に触れることができる」から
いまにして思えば実に不純な動機ですが、志望動機はまさにこれでした。二十歳そこそこの若者にとっては、憧れの輸入車に触れられるだけで幸せ。いまから20数年前といえばバブル崩壊後で、高級車が値崩れして市場に出回っていた時代。さらに円高で海外(特にアメリカ)から並行輸入車が次々と上陸を果たしました。並行モノのポルシェ911(993)が、正規ディーラー新車のより優に100万円以上は安く買えた時代です。こういうクルマが毎日のように工場に入庫してきました。
納引きはまさに「役得?」
またもや不謹慎な話しで恐縮ですが、ディーラーやブローカー、さらにはお客様からクルマを預かる「納引き(納車引き取り)」は、丁稚奉公である筆者の役割でした。とはいえ、これまで雑誌でしか見たことがないような最新の輸入車を運転できるのです。筆者にとっては役得でした。W124/W126/R129時代のメルセデス・ベンツ、E30/E34時代のBMWは、この仕事で数え切れないくらい運転しました(もちろん、丁寧に運転しました)。まさか、このときの経験がいまの仕事で役に立つことになろうとは…。
アルバイトしていた施工店でのウィンドウフィルム方法
動画と施工方法は完全にはリンクしていませんが、施工の手順は以下のとおりでした。
1.施工するガラス周辺が濡れないよう、透明フィルムで養生
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2.中性洗剤に水を混ぜた潤滑水をガラスにたっぷり吹き付ける
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3.カッターの刃でガラスに付着している鉄粉などの不純物を除去
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4.潤滑水をたっぷり吹き付ける
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5.スポンジでガラス面を洗う
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6.潤滑水をたっぷり吹き付ける
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7.ウィンドウフィルムを剥離紙から「半分だけ」はがす
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8.ウィンドウフィルムの接着面に潤滑水をたっぷり吹き付ける
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9.ウィンドウフィルムをガラス面に貼り付け、手で軽く押さえる
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10.ゴムベラとクッキングペーパーを挟んだヘラを使い、ウィンドウフィルムとガラス面のあいだにある水分を掻き出す
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11.半日〜1日程度、窓ガラスを開閉させないようにして、固着化させる
当時は「濃い目のフィルム」が人気で、もっとも注文が多かったのが透過率21%のものでした。なかには、もっとも濃い透過率8%を選ぶ強者も…。
20年前のカーウインドウフィルムは型紙が命!
当時のウィンドウフィルムは、初入庫したクルマから型紙を起こすことになります。もちろんこれも手作業です。型紙には生花店でお花を包む透明のフィルムを使っていました。プラスチック製のヘラの先端に紙やすりを貼り付け、透明のフィルムに傷をつけながらガラスの型を取っていきます。このあたりはまさに職人芸です。
倉庫には各自動車の型紙が筒状のケースに大切に保管されていました。この型紙がノウハウであり、生命線なのです。ロシア製の自動車「ラーダ・ニーヴァ」というクルマの存在を知ったのもこの仕事がきっかけでした。
同じクルマでも微妙にガラスのサイズが違うことを知る
モデルイヤーなどの生産時期やサプライヤーが異なる影響なのか。例えばポルシェ911(993)でも、ガラスや熱線の位置が微妙に異なることがしばしばありました。これを一見して判別するのは相当困難です。型紙を窓ガラスに当ててみて初めて気づいた…そんなことの連続でした。事実、目視では微妙な差でも、型紙をベースにカットしてフィルムを貼ってみるとまったく位置が合わないのです。これは正直焦りました。そういうときに限って急ぎの依頼だったりするので、急いで型紙を起こして、何とか希望の納期に間に合わせたことも…。
施工が一番大変な窓ガラスの種類は?
・内装が起毛
当時のボルボ960ワゴン。荷室の内張や窓ガラス周辺が毛羽立っていて苦労しました。筆者も剥離紙からフィルムをはがす際にゴミが混じり、新たにカットしたものを貼り付けたことが何度もありました
・ゴム枠
ハイエースバンなどの商用車、H1ハマーなどの窓はゴム枠でした。ゴム枠だと微妙に波打っており、現車合わせが基本です。ゴミが混じりやすいので、これも苦労しました
・3次曲線形状のガラス
大げさにいうと球体をイメージしてください。そこに平面のウィンドウフィルムを貼り付けるのです。熱で押さえて圧着させないと貼り付けられないのです。ポルシェ928は大変でした…
当時はすべて手作業でウィンドウフィルムをカット
起こした型紙に沿って、市販のカッターナイフでウィンドウフィルムをカットしていきます。カッターの刃はすぐに錆びるので、先輩たちのものを含めて毎朝新品に交換するのも筆者の仕事です。クルマのウィンドウのラインはほぼ曲線。定規が使えない箇所ばかりです。そうなると、フリーハンドでウィンドウフィルムをカットしなければなりません。先輩たちは何のためらいもなくフィルムをカットしていきますが、筆者はなかなかこれがマスターできず、怒られてばかりいました。
リアガラスも熱線に沿って分割して貼る。いまは1枚貼りが基本?
リアガラスの形状によって、ベテランの先輩の「勘」で分割数を決めていきます。平均して4〜6分割。熱線のところで貼り合わせていくのですが、この「貼り合わせ」の幅をいかに細くできるかが腕の見せどころでした。メルセデス・ベンツSクラス(W140)のようにリアガラスが2重になっている場合、熱線のラインがありません。フィルムの「貼り合わせ」の幅を最小限に留める必要があるため、さらに難易度が増します。これはプロでなければできないかもしれません。それほど難易度が高いです。
現在は、動画のような「ヒートガン」というドライヤーのような器具を用いて、フィルムを熱風で柔らかくほぐし、ヘラで少しずつ全体を伸ばしながら施工していく最近は1枚貼りが主流のようです。
すべてがアナログ作業だったウィンドウフィルムの施工作業、本当に色々なことがありました。それについてはまた次回…。
[ライター/江上透]