ドイツ現地レポ
更新2017.08.17
30年以上を経てより輝きを増す!ベルリンで見かけたBMWアルピナ B7ターボ/1
守屋 健
アルピナはルーフと同じく、独立した「自動車メーカー」
低められた車高、控えめな前後のスポイラーとストライプ。繊細で力強いデザインの20本スポークのホイール。わずかに主張するエンブレム。ボディやホイールの中まで磨き込まれていて、オーナーの深い愛情を感じさせる1台。休暇中、家族と一緒にアウトバーンを走ってここまで来たのでしょうか。美しいBMWアルピナ B7ターボ/1を前に、筆者は思わず息を呑みました。
アルピナはBMWと強力なパートナーシップを結び、BMWのクルマをベースに少量生産のハイエンドモデルを製造する、独立した「自動車メーカー」です。ポルシェから供給を受けて独自のクルマを生み出すルーフが「自動車メーカー」として認可されているのと同じような関係性ですね。アルピナに勤務するスタッフは220人、年間の生産台数は1200〜1700台(フェラーリの2016年の販売台数が8014台ですから、単純な比較で4分の1以下)という、名声とは裏腹に、とても小規模なメーカーであり、今後も「クオリティを最優先し、無理な増産は行わない」と明言しています。
今回ご紹介するBMWアルピナ B7ターボ/1は、BMW 5シリーズ(E28)をベースに1984年に発表されたスポーツセダンです。製造中止となる1987年までの生産台数はわずか236台。直列6気筒3430ccエンジンにKKK製シングルターボを装着し、当時としては破格の300psを発生。0〜100km/h加速は5.9秒、最高速度260km/h以上という、並み居るスポーツカーが逃げ出す性能を備えながら、人も荷物も運べるスーパーサルーンとして君臨していました。
ギアボックスは、ゲトラク製の5速マニュアル。ビルシュタインと共同開発した強化サスペンションが組み込まれており、特に後輪は、当時としてはかなりのネガティブキャンバーが付けられているため、現代の感覚で見てもかなりの迫力があります。ホイールサイズは16インチで、組み合わされるタイヤは前205/55・後225/50と、セダンとしては極太・超扁平サイズでした。この個体のようにピタリとホイールアーチに収まっていると、全体としてとても引き締まって見えますね。30年以上を経たとは思えない、素晴らしいコンディションでした。
アルピナは本国ドイツでも希少な存在
アルピナは2015年に創業50年を迎えました。アルピナ創業時からの「上品さ」と「控えめであること」というモットーは、このB7 ターボ/1にも、現行のラインナップにも脈々と引き継がれています。ラグジュアリーなインテリア、エンジンやサスペンション、ブレーキなどの独自のメカニズム、少しだけスポーティな印象を増したエクステリア……それらが一体となったアルピナのクルマは、ベースとなったBMWとは全く異なる独特の世界観があります。少量生産にこだわり、工芸品のような圧倒的なクオリティを維持し、新型車の発表ではその完成度で世界をあっと驚かせる、それを可能とする数少ないブランドがアルピナであり、ドイツ国内にも多くのファンが存在します。
ところが、生産台数の少なさが原因でしょうか、アルピナのクルマはドイツ本国でもあまり見かけることはありません。Hナンバーの個体を見ることはさらに稀です。出会えた幸運に感謝しつつ、これからもこうした貴重なアルピナが公道で元気に走り続けてくれることを願うばかりです。
[ライター・カメラ/守屋健]