
試乗レポート
更新2023.11.22
「夏休みだから那須塩原へ」BMW 2シリーズ 218dグランツアラーに試乗する
中込 健太郎

自動車メーカーとしても、FRや直列6気筒エンジンという、比較的オーセンティックなアイコンを今も大事に守り続けているメーカーというイメージが強いかもしれません。しかし、そんなBMWも近年では様々なニーズに応えるべく様々なニューモデルをリリース。コンパクトなモデルではFFレイアウトも積極的に採用したりしています。実際のところどうなのか。やはりちょっと気になりますよね。
もう秋雨前線が居座る季節になってしまい、少し前になりますが、今年の夏休みは、甥や姪も一緒に那須塩原に行くというので、その機会に「BMWなのにFF」「BMWなのにミニバン」な、2シリーズ 218dグランツアラーの試乗をすることにしました。果たしてどんなものなのか振り返ってみましょう。

BMWの最初のモデルはコンパクトカーだった!
こういう伝統を重んじ、スタイルを貫くメーカーや車種には、とかく頭の固いファンが群がりがちですね。原典・原理主義というか、「ねばならない」を五月蠅く繰り返す人いますね。まあ、わからないでもありません。しかし、例えばBMWに関しては金科玉条のごとく「滑らかなストレート6」を盲目的に唱える、そういう人も散見されますね。ただ、いろいろ見ていくと古くはV8モデルがかなり主要な構成を占めていましたし、もとをただせば、最初に生産したモデルなど、コンパクトカーというべきクルマDixi(ディクシー)だったのです。
このdixiはどんな状況で生まれたのでしょうか?虎視眈々と自動車生産に乗り出そうとしていたBMWのですが、そのころイギリスのオースチン・セヴンのライセンス生産車「dixi」の製造権を持っており、鉄道車両の製造なども手掛けていた、アイゼナハ車両製作所の株式が大暴落。このタイミングを狙ってさっくりと買い取ったところで、工場と権利が手に入り、自動車製造に乗り出した、というようなことのようです。このクルマは、クラスでいえば小さな高級車3シリーズのようなモデルだったかもしれませんが、サイズはずいぶんコンパクトなクルマ、自動車趣味の観点からBMWを見ている方には受け入れていただけないのかもしれません。それでも、当時のユーザーから受け止められ方としては、すこし背を伸ばして買う、初めてクルマ、そんなチョイスの、コンパクトなBMW。まさにこの2シリーズ アクティブツアラー/グランツアラーのようなクルマだったんじゃないか。そんな気がしているのです。

▲電動パノラマガラスルーフを装着していると解放感も抜群だ。雨さえも、旅をともにする中まで楽しめるのだからなんとも旅情を掻き立てるというもの。3列目はエマージェンシーの域を出ないがそういうその席に座る人にもこれがあるとないとは大違いだ。
実質的にBMWとしての何かを捨てているわけではない
確かにオーセンティックなレイアウトでスタイルを踏襲すると、昔ながらの経験的に比較的多くの人が感じることができる「かっこいいクルマ」になるのは間違いないでしょう。最近のBMWはドイツ勢の中でも、もっともインテリジェンスに固執しているとすら思うほど、スタイリッシュで、優等生的で、厳しい言い方をすると色気を捨てて、堅実さ、世の中から支持される存在にこだわりすぎているとすら感じるものです。しかしもともとは、ドイツ車でありながら、どこか危なげのある、パフォーマンスのためには盛大なエグゾーストノートを歌い上げることも辞さない、騒々しくて軟派な印象すらあるクルマを多く作っていたメーカーというイメージがあります。それに比して、この218dグランツアラー。まさに日本のメーカーがやってきたことを、2010年代も中盤を過ぎた今になって、なんの工夫も遊びもなく真正面からやってみました。そんな雰囲気すらあり、お世辞にも色気を感じるようなところはありません。

▲日本にも挑戦的なミニバンが数多くあった。画一的で間違いないものもいいが独創的で個性的なモデルの登場も願わずにはいられない。
しかし乗ってみるとどうでしょうか。重いものを引きずっている感じもなく、むしろアクティブツアラーよりも長いホイールベースが乗り心地をいい方向に作用させていると感じさせます。FFだからこそ、ハンドルの切れ角、車速、タイヤの舵角の3点の塩梅をしっかり注視!!そんな気遣いをかえって感じるほど、セッティングは自然なものでした。正直最近、御多分に漏れず急にラインナップを拡大したBMW。中にはお世辞にもBMWと認めたくないようなハンドリングのモデルもあったことは私自身確認しています。よく言うBMWらしさとはなんだろう、といったとき、それこそマツダあたりが「人馬一体」というあの感じ。あれではないでしょうか。心地よく高回転まで回る、それにつれて加速がリニアについていく。ハンドルを切ったらその切った分だけ、言い換えると意図した分だけクルマがナチュラルに旋回していく。すべてにおいて、重厚かつ軽やか、そして一切の淀みなく。個人的にはこれだと思っています。
このモデルには、そもそも高回転型ではなかったディーゼルエンジンの素性からスタートさせて、その割には高回転型になっている。そんなエンジンの基本的性質とBMWによる仕事、このどちらも共に感じることができ、結果としてその重厚かつ軽やかな仕上がりになっているこのエンジン。まあ、要は最近日本でも人気の3シリーズなどにも載っている「例の4気筒ディーゼル」の発展型なわけです。しかしそれでも、当初に比べてメカニカルノイズもグンと静かになったように感じます。このあたりに関しては「やかましいからガソリンだ」という人もいるので、その許容度についてはぜひ、お近くのディーラーなどで試乗してみて確かめていただくことをお勧めします。このトルク感とそのゲインの割に、二度見する経済性はなかなかの求心力を感じますが。

▲基本は黒子に徹したエンジンの域を出ないものなのだろうが、それだけのことはあるエンジンだし、だからこそ主張するものもあるというものだ。いいクルマはその搭載位置なども工夫されているものだ。
このクルマを購入する状況で、もしかするとBMWに乗りたいお父さん、最初はあまり乗り気ではないかもしれません。しかし奥様やご家族の支持が厚かったりして、しぶしぶ試乗してみたとしましょう。試乗してみると、「これでいいかもな」と思えるレベル。案外そういうクルマではないでしょうか。むしろ「我が家の車庫は一台分。そこに納めるクルマなのだから制約もあるし、できるだけ我慢をしない選択肢をさがしたい。」実はそんなかなりマジョリティを占める需要に対して、BMWの回答はもはやエンスーメーカーのそれではなく、日本市場では一定の支持を集めている一大メーカーとしての「自覚」「節度」のようなものすら感じる、「積極的に手堅い」もののように感じました。
プジョー・シトロエンからもC4ピカソあたりで、素晴らしいディーゼルエンジンとともにマイナーチェンジしたものが導入されることでしょう。大いに迷ってみてはいただきたいのです。 MPVでは国産にも多数実力派のモデルが存在しますし、大きいものでよければメルセデスベンツのVクラスもオールディーゼルモデルでのラインナップです。自分ひとりの楽しみのクルマではないからこそ、マニアックに、情熱をこめてクルマ選びをする。実はこのクラスにこそ、それが必要なのではないか。個人的にはそんな風に、最近特に感じているのです。

▲大谷パーキングに寄ったので関東・栃木レモン牛乳を飲む。今回のクルマとは関係ないが、こういう他愛ないことも行かねば出来ないことだ。遠出もできる性能はだから大事で、人生どれだけコンテンツリッチかどうかは今のご時世無視できないのでは。そんな今、クルマが軽視されていること自体が全く理解に苦しいところである。
宇都宮を過ぎたところからのライバルは並走する新幹線?
少しこれはオーバーかもしれませんが、明確な登坂ルートに入る宇都宮から先で、このクルマはかなりのペースを保つことができました。那須塩原はそんなに近かったかしら、と思うほどあっという間です。このクルマはあまり、リゾートムードを掻き立てるアピアランスとは言えないかもしれませんが、近くのショッピングモールやデパートばかりが出かける目的地では、このクルマにはもったいないです。
愛車を持つというのは最近、軽々しく「無駄じゃないか?」「何の意味があるのか」というようなことが書かれたりして、そんなWEBの記事を私も拝見します。しかし「維持費はかかるがリターンが最大限」なのです。わかりやすく言えば「懐中自由」でしょうか。なんでも自動的にサクサクできるようでありながら、全体最適の世の中になっています。そんな中、家族みんなで天候も時間も気にせず、発見があり、出会いがあり、応援出来て、届けられる。こんなに閉塞した時代、クルマさえなかったらどれほど閉塞的で画一的、封建的だろうと思うとぞっとします。
クルマは、こんな状況の中で誰もが手に入れることができる「自由」に他なりません。そんな時に選ぶなら少しでも環境に配慮したもの。自動車という性質を考えると、内燃機関との相性にはやはりそれなりの説得力があるものです。内燃機関の自動車であれば、ガソリンよりもエネルギー効率において倍を誇るディーゼルエンジンでこういうクルマが買える。それは消費者にとってとても良いことだと私は思うのです。

▲モデルは甥のじゅんやくんにお願いした。子供はこういうクルマ大好きだし正直だ。なかなかおりたがらなかったことも報告しておかなければならない。
ミニバンに乗ると結婚して子供がいる暮らしもいいなと思う
よく独身の方に対して、好きなクルマに乗れていいですね、と言われたりします。確かにそうです。それは否定しません。しかし、それはクルマとの2人称的な世界を見た場合の話。もっと俯瞰して自動車幸福論を考えると、「そろそろ落ち着いてミニバンにしないと」「家族がいるからやはりミニバンにしないとならない」「もうクルマで出かけるのは子供の行事ばっかりで大変」みんなどれも国語の解釈的には否定的な言葉ばかり並んでいます。しかし、これらのいずれも独り者の筆者には味わいようのない話なのです。

▲こちらは姪のゆいかちゃん。ちなみにこれは出かけるわけでもないのに見つかって乗り込んで「見学」して降りなかった時に撮った一枚。まったく、妹親子そろってピースじゃない(笑)

▲那須を往復して返却時に仕方ないので給油したがまだ燃料タンクには結構燃料が残っている。半分を少し過ぎたところだったろうか。まあ経済的なことに変わりはない。かなり燃費よりは積極的にペースを保つ方を優先した運転で1リットル当たり15キロほど走った。

筆者が昔働いていた中古車販売の現場でも、商談で胸が熱くなったのは高級車の商談ではなく、自転車で近所の家族が来店して、初めて車を買ってみようと思って、などと言ってファミリーカーを買うという商談の方でした。高級車を買う人は、何を言っても好きなのを買います。それでいいのです。商談もよほどサクッと決まります。しかし、こういう家族の場合、目の前で夫婦げんかになることもありますし、それぞれのミニバンの違いなんかも説明してあげないとわかりません。セレナとヴォクシーはどう違うのか。知っているアドバイスを差し上げて少しずつ希望の車に近づいていくわけです。幾多の関門を潜り抜けていく過程、なまじクルマが好きな営業マンとしてみていたのは困難としてではなく、家族を持つからこその責任感と幸福以外のないものではない、ということなのでした。まったく、ごちそうさま、であります。
・・・という選択肢がBMWで用意されているということなのです。このクルマに関して言わねばならないこと。それはただ一つ「括目せよ」ということではないでしょうか。そして案外それに見合うだけのクルマだと思う。今ちょっとしたクルマを買っても300万円から400万円のレベルは要求される時代です。BMW 2シリーズ 218dグランツアラーをぜひ思い出してほしい。そう思うのです。
[ライター・カメラ/中込健太郎]