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更新2017.12.12
なぜTTなのか?ボクがアウディTTを買った5つの理由とは
JUN MASUDA
「8S」いうコードネームを持つ、三代目にあたる現行モデルだ。
ボクは以前にも二代目TT(こちらは8Jというコードネームだ)を所有していたことがあるので、マイカーとしてはTTをこれまでに二台購入したことになる。
▲これが今回購入したボクのTTだ。納車と同時にカスタムしてある
その1:TTはアウディの異端児だ
アウディTTは、アウディにおける異端児である。
そもそも、TTはアウディのラインナップにおける命名規則から外れている。A1、A3、A4、そしてQ3やQ5といったアレだ。
この中では、Tというアルファベットがつくモデルはこの「TT」しかない。
現在、アウディには(アウディのサイトによると)6つのモデル名がある。
「A」「S」「RS」「Q」「TT」「R8」だ。
そして同時に、「TT」と「R8」のみが独立したモデルとして存在することもわかる。
TTの名称はイギリスにある小島で開催されるレース、「Tourist Trophy Race」にちなんでいる。この「ツーリスト トロフィー」を略したものが「TT」というわけだ。
なお、「A」は「Audi」の頭文字であり、「ものごとのはじまり」を表すそうだ。
「S」はもちろんスポーツ、そして「RS」はレーシングスポーツ。
「Q」はアウディの誇る4WDシステム「quattro」から、「R8」はルマン24時間レースにて輝かしい成績を残したレーシングカーに由来する。
これを見ても「TT」が他のアウディとは「ちょっと違う」ことがわかると思うが、TTの特殊性はそのネーミングだけにとどまらない。
そう、TT最大の特徴とも言える「デザイン」について触れておく必要がある。
▲TTはほかのアウディ車とは異なるデザインやパーツも多い
TTのデザインとしてのルーツは1995年に発表された「TTデザイン・スタディ・モデル」にまでさかのぼることができる。
これを市販モデルとして発売したものが「初代TT」だ。
このクルマはなんというか、とにかく特殊な車だった。
未来っぽいような、レトロなような、クルマであってクルマでないような雰囲気があったのだ。
もちろん、どのアウディにも似ていない。
そして、ボクはこういった「異端」が大好きだ。
その2:TTは新世代のポルシェとなる可能性があった
TTの生い立ちについて、もう少し触れておこう。
TTは「もしかすると」次世代ポルシェとして発売される可能性もあった、ということをここで述べておきたい。
▲デジタル式「バーチャルコクピット」が装備される
初代TTのデザインは、フリーマン・トーマス氏によるものだとされている。
このフリーマン・トーマス氏はアウディに移る前、ポルシェに在籍していた。
そして、ポルシェ時代の同僚がかの(エンツォ・フェラーリのデザインで知られる)ケン・オクヤマ氏であった。
ケン・オクヤマ氏の著書「ムーンショット デザイン幸福論」では、知られざるアウディTT誕生の瞬間について語られている。
それによるとこうだ。
その頃(文中に記載はないが、逆算すると1980年代前半だと思われる)、ポルシェは「新しいクルマ」を考えていた。
そこで、くだんのフリーマン・トーマス氏は自分の考えた理想のクルマを「新しいポルシェ」のデザインとして提案するが、あえなく却下されてしまう。
しかし彼はその「理想のクルマ」の実現をあきらめることができず、自宅でクレイモデルを作り続けた。
▲TTは彫刻的な美しさがある、とボクは思う
自宅キッチンのオーブンを使用しながらクレイモデルを作ったため、デザイナー仲間からそれは「キッチンカー」と呼ばれたそうだ。
彼はその後、アウディに移籍するが、そこで同社のピエヒ会長(当時)主導による、新しいデザインをもつ新型車開発のための緊急プロジェクトに招集されることになった。
そこでフリーマン・トーマス氏がピエヒ会長に提案し、一発で採用となったのが「TT」の原型、つまりキッチンカーだったという。
ポルシェではついに陽の目を見ることはなかったが、アウディTTとは、ずっと夢を追い求め、15年がかりでそれを「形」にしたひとりの男の物語でもある。
現在ポルシェはアウディ傘下となったが、これについても因縁のようなものが感じられ、そのためボクはTTとポルシェとを切り離して考えることができない。
「もしかすると」ポルシェから発売されていたかもしれないクルマ、それがアウディTTだ。
その3:TTの維持費は比較的安価だ
ボクがTTに感じる魅力は、単にドラマやデザインだけにとどまらない。
現実的な「維持費の安さ」、正確に言うなれば、「スポーツカーらしいルックスと性能に“比較した”維持費の安さ」だ。
▲キーはアウディの中では最新式となる
TTより高い性能を誇るスポーツカーはたくさんある。
だが、TTより維持費の安いスポーツカーは滅多にない。
それは排気量(1984cc)に起因する自動車税、比較的事故率が低く、修理が容易なためか、スポーツカーとししては低い保険の料率設定、なにより高い燃費性能。
ここでひとつ例を見てみよう。
ボクは以前、ポルシェ981ボクスターに乗っていた。
981ボクスターの排気量は2.7Lで、出力は265馬力。0-100キロ加速は5.6秒、燃費はリッターあたり12キロ。
アウディTTの排気量は2L、出力は230馬力にとどまるが0-100キロ加速は5.3秒、燃費はリッターあたり14.7キロ、という数字だ(それぞれカタログ値)。
TTのほうが加速が良く、しかし燃費が良い、ということがわかる。
加えてTTの自動車税は年あたり39,500円、ボクスターのそれは51,000円となる。
▲ボクのTTはマフラーエンドをブラックに塗ってある
任意保険については、「料率」によって保険料の大きな部分が決まってくるが、ボクスターの料率クラスは車両6 / 対人6 / 対物5 / 障害4、という設定だった。
対してTTは車両8 / 対人4 / 対物4 / 障害4、という範囲に収まる。
車両の料率こそは高いが、そのほかは低いことが見てとれる。
ただ、クルマは「維持費」だけで選ばれるべきではなく、ポルシェ981ボクスターは「TTよりも維持費が高かろうと」その魅力はみじんたりとも損なわれないクルマであった、ということは付け加えておかねばならない。
その4:TTはどこへ乗って行っても気後れすることはない
TTはデザインコンシャスなクルマだ。
いいかえれば「オシャレ」といってもいい。
そして冒頭で述べたように、アウディの命名法則に当てはまらず、つまりは「ヒエラルキーの外」にあるクルマでもある。
▲車体はコンパクトだ。取り回しにも困ることはない
これは「クラスレス」と言いかえてもいいかもしれないが、外観についても、TTはその属するクラス、そして価格を判断しにくいクルマだ。
例えばアウディだとA3、A4、A6、A8、といった感じで序列がある。
それはBMWでも、メルセデス・ベンツでも同じだ。
だが、そもそもスポーツカー自体が「序列」のわかりにくいセグメントであり、その中でもとくにTTはそのポジションを(とくに一般人からは)判断しにくいのだろうと思われる。
つまり、「価格は知らないが、なんとなく高いのだろう」と思えるクルマがTTだというのがボクの認識だ。
▲TTは細部に至るまでこだわった作りがなされている
そういった理由で、TTは単純にほかのクルマと比較できるものではなく、そしてTTは形式こそ「3ドアハッチバック」ではあるものの、サルーンと並んでも気後れする車ではない、と考えている。
そして、これと似たようなクルマとして「ミニ」があげられるかもしれない。
ミニは比較的小さなクルマだが、「小さいクルマだから安い」と捉えられる類のクルマではない。
要は「好きだから」という積極的選択肢によって選ばれるクルマであり、「(モロモロの理由で)上位モデルを買えなかったから」という消極的選択肢の結果として乗っているわけではない、という意思を示せるクルマではないか、ということだ。
どんな車が横に並ぼうとも、「ほかの人はほかの人、オレはオレ」だということを周囲に知らしめることができる、と言ってもいいかもしれない。
ただし、これはあくまでもボクの感じるところであり、これと異なる考えを持つ人も多いこと、もちろんボクはそれを尊重したいと考えていることも記しておきたい。
その5:TTの走行性能は高いレベルにある
アウディによると、TTは「高性能と高効率とを両立するリアルスポーツカー」とある。
TTがリアルスポーツカーであるかどうかは意見が分かれるところだが、これについてはここで論じるつもりはない。
▲アウディはパーツの一つ一つが高品質だ
ただ、実際のところTTの運動性能はかなり高い。
ポルシェを3台、ランボルギーニを2台乗り継いだボクが言うのだ。
ターボエンジン+4WDによる加速は胸のすくものだと言えるし、4WDによるグリップの高さ、とくに高速カーブにおけるスタビリティは特筆すべきものがある。
TTに近い価格帯を持つクルマの中だと、多くの場面において、TTよりも速く、TTよりも安全に、そしてTTよりも安心して走れるスポーツカーは少ないだろう。
以上が、ボクが今回アウディTTを選んだ理由だ。
TTはデザインに優れ、そのため高級車の中に交じってもその輝きを失わない。
さらには燃費性能に優れ、維持費が安く、安定性や安心感が高いうえに運動性能も良い。
もちろんTTより優れたデザインや運動性能、走行性能を持つクルマは多い。
だが、「この価格帯で」という制限を付与すれば、TTに軍配が上がる可能性が限りなく高くなる、とボクは考えている。
▲テールランプの発光方法も印象的だ
しかしながらTTとて完璧ではなく、当然懸念材料はある。
それは「値下がりの心配」と「人とモノが乗らない」ということだ。
これはある種の人々にとっては致命的とも言えるが、またの機会に触れてみたいと思う。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]