
コラム
更新2018.06.22
アウディのデザインはどこへ向かうのか?デザインの変遷を考察してみた

五十嵐 圭吾
アウディ・デザインの原点と進化


▲1968年にヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したRo80。凹凸が少なく当時としては空力に優れた未来的なデザインに前衛的なロータリーエンジンを搭載した
4社が合併して結成されたアウトウニオンとNSUが併合されて生み出されたアウディだが、そのエクステリアデザイン・フィロソフィーの原点は併合直前に発売されたNSUを冠した最後のモデル、Ro80にあった。
水平基調なキャラクターラインを描きながら適度にカーブした角や面に、ロングホイールベースの伸びやかなシルエットが優雅なそのモデルは、シンプルかつバランスのとれたディテールでタイムレスなデザインをまとったクルマであった。


▲第4世代目のアウディ80カブリオレ。25年以上前という古さをそれほど感じさせない、Ro80の特徴をうまく引き継いだデザイン
1980年代に四輪駆動システムのクワトロを乗用車用として開発してラリー参戦したりしていたアウディ。
1990年代には現在のモデルにも引き続かれている「A」から始まるネーミングでラインナップを整理、90年代後半にはラウンドしたモチーフを多用したTTやオールアルミボディを採用したA2(日本未発売)など個性的なモデルもラインナップしていたが、プレミアムブランドとしては他の欧州ライバルたちに比べてそこまで大きな存在ではなかった。

▲新しいデザインの方向性生み出した初代TT。丸みを帯びながらも水平基調のキャラクターラインにスッキリとしたディテールはきちんと受け継がれていた
プレミアムブランドとしての地位確立…シングルフレームグリルの登場

▲日本人カーデザイナーの和田智氏による3代目A6セダン。シングルフレームグリルで他のプレミアムブランドにも負けないアイデンティティをもたらした
そのアウディを一気にプレミアムブランドとしての立ち位置を確立させたのは、2000年代中盤になってからであろう。1930年代に活躍していたアウトウニオン製レーシングカーのフロントグリルをモチーフとしたシングルフレームグリルを採用し、美しい中にも個性とヘリテージを持ち合わせたデザインで好評を得た。
Q7を筆頭に今も世界的なトレンドになっているSUVジャンルにも参入、とくに初代Q5はすっきりとしてバランスのとれたハンサムな仕上がりが印象的であった。 そして個人的には初代A7が発表されたあたりがアウディ・デザインのファン度(?)がピークであったと言える。A7を最初に街中で見かけたときは、そのなだらかに落ちていく4ドアクーペ・シルエットにバランスのとれたディテールがなんともエレガントで衝撃を受けたことを覚えている。

▲2010年に発表された初代A7。5メートル近い全長を生かした伸びやかなクーペシルエットが美しい
さらなるブランド躍進のため?デザインのアグレッシブ化

▲キレッキレなエッジで愛らしい面持ちからコワモテに変化した現行型TT
そんなアウディ・デザインも数年前から異変?が起き始めている。バランスのとれたボディシルエットはそのままであるが、全体的にこう、シャキーン!という効果音がいまにも飛び出てきそうなアグレッシブなデザインに変わってしまったのだ。
インパクトがありながらも主張しすぎない 流麗なシングルフレームグリルがいつのまにかカクカクになり、いたるところに複数のラインが増え、なんとなく同社の傘下であるランボルギーニを意識しているようである。もしくは某日本の高級車ブランドに影響を受けたのかと思わせるようなデザイン…。

▲横に伸びた六角形シングルフレームグリルとヘッドライトが繋がった強そうなフロントエンド…。イカツさ満載の現行型Q7
とくにSUVのデザインの変わりようが凄い。
つい先日発表された最上級モデル、Q8なんかは、さらに角度を付けたエッジに複雑な構造の大げさなディテールでトランスフォーマー的デザインの頂点を極めたようなモデルに見える。そこにはかつてのモデルに受け継がれてきたブランド・アイデンティティなるものも、今までのモデルにあった気品もがまったく感じられないと思ったのは筆者だけであろうか?
今や世界一の自動車メーカーであるフォルクスワーゲン傘下のアウディであるだけに、ブランド戦略や顧客分析などはしっかりしているのであろう。実際のところアウディだけではなく、他のプレミアムブランド、とくにドイツ系はこの「てんこ盛りデザイン」の傾向が強いように感じられる。
これはファッション業界、とくにハイエンドな高級ブランドにもこの傾向が最近よく見受けられる。もしこれが顧客対象である裕福層の趣向の変化であるなら、一般市民の端くれである筆者にとっては理解不能なトレンドである。
[ライター・撮影/五十嵐 圭吾]