
試乗レポート
更新2018.04.10
実は乗り手にフレンドリー!アリエル・アトム3の試乗レポート
松村 透
先日、アリエル・アトムという、イギリス車に試乗する機会がありました。
アリエル・アトムは、「アリエル・モーター・カンパニー」という企業が製造・販売しているクルマです。1999年に初代モデルが誕生し、改良を加えつつ現在に至ります。今回、試乗したモデルは「アリエル・アトム3」となります。6速MTに、最高出力245馬力をたたき出すホンダ製2リッターiVTECエンジンを搭載しています。内装やオーディオもちろんのこと、ドアすらもない、まさに公道を走るレーシングカートのような存在かもしれません。
ご覧のとおり、屋根はもちろん、ドアも、布張りの内装もない潔さ!
クルマは乗ってみなければ分からないとよくいわれます。このアリエル・アトムも例外ではありません。むしろ、乗ってみて感動・・・どころではなく、離れがたい衝動に駆られる1台でした。
マフラーの位置もご覧のとおり。「後方排気」という表現がしっくりきます
パイプフレームをまたぎ、内装とバケットシート2脚分が一体成形されたパネルの運転席側に「潜り込む」と、眼前には小さなウインドウスクリーンがあるだけ。風がダイレクトに顔面にあたりそうです。そして、視線が地面から限りなく近い。そう、これはもうレーシングカートの世界です。
これが運転席に座った景色。まるで公道でレーシングカートをドライブするような気分です
6点式フルハーネスのベルトで身体をシート部分に縛り付け、ボタン式のエンジンスターターを押すと、すぐさま背後から2.0L iVTECエンジンが目覚めます。6速MTを1速に入れ、おそるおそるクラッチを繋ぐと、アリエル・アトムは事もなげにするするっと動き出します。車重600kgプラスアルファの恩恵か、最初のひと転がりからして軽いのです。
センターコンソールと一体成形されたバケットシート形状のパネル
「果たしてこんなクルマ乗れるのだろうか」という不安は、1速から2速へシフトアップする頃には忘れてしまいます。それ以上に、アリエル・アトムがフレンドリーであることに、飛び上がりたいほど嬉しい衝動を抑えきれない自分がいます。MT車を抵抗なく乗れる方であれば、おそらくアリエル・アトムとはすぐに「トモダチ」になれます。
シフトノブ周り。シフトチェンジそのものが喜びに変わるクルマはいまや希少です
アリエル・アトムを走らせていると、いつもの道が、まるでF1 モナコグランプリのオンボード映像を観ているような錯覚に陥ります。しかし、ダイレクトに顔に当たる風が、いま起こっていることが現実だと気づかせてくれます。いつもの近所の交差点を曲がる瞬間がこれほど痛快だったとは!
アクリル板と思われる素材がウインドウスクリーン。ステアリングを脱着して乗り降りします
道が空いたところで、アリエル・アトムの加速を試してみます。このホンダ製2.0リッターiVTECエンジン(K20Z4エンジン)の真骨頂は6,000回転から上の領域。このあたりの回転域から、タコメーターの針が7,000回転目がけて勢いを増します。と同時に、背後から聴こえてくるエンジンの音色が明らかに変わります。ホンダファンならずとも堪えられない瞬間です。
助手席側からの眺め。すべてが剥き出しのままですが、アリエル・アトムはすごくフレンドリー!
そういえば、VTECエンジンってこんなフィーリングだったなよあと、久しく忘れていた感覚が呼び起こされました。筆者が初めてVTECエンジンを体験したのは、通称「サイバー・スポーツ」と呼ばれた2代目CR-X Si-Rでした。このクルマに搭載されていたエンジンはB16A型。友人の計らいで、2速でレブリミットの7,600rpmまで「ブン回すことができた」ときの感動が甦ってきました。
エンジンカバーにはホンダの赤バッチが…。前オーナー氏のアレンジでしょうか
アリエル・アトムを走らせていると、必然的に周囲の人の視線を集めます。そのほとんどが「何だこれ!?」といったもの。下校途中の小学生たちも歓声をあげています。こちらも調子に乗って思わず笑顔で手を振り返してみたり。確かに、戦隊シリーズの劇用車としても使えそうな佇まいです。ただ、クルマから降りようとあたふたしているあいだに敵キャラに攻撃されそうです(笑)。
こちらがライト類。ノーズ部分はまさにフォーミュラーカーそのものです
アリエル・アトムは決して気難しいクルマではありません。アイドリングでクラッチを繫ぎ、アクセルを踏み込んだ瞬間から「こんなクルマ乗れるのかな…」という不安は杞憂に終わります。遠くから見ていたときは、気難しそうな、トモダチになんてなれないと思っていた転校生が声を掛けてきて、実はすごくフレンドリーなイイ奴だった、そんな場面を想像させてくれます。
フロントカウルを外すと現れるのが荷物スペース。サスペンションはプッシュロッド式です
アリエル・アトムで買い物に行ったり、旅行に行くのは正直なところかなり大変でしょう。しかし、アリエル・アトムでしか味わえない世界を、わずかばかりの試乗でも垣間見ることができました。そしてそれは、忘れかけていた「ただただ運転することが楽しい」感覚を鮮烈に思い起こさせてくれたのです。
フロントの足回りはご覧のとおり。整備性はかなり良さそうです
アリエル・アトムの試乗を終えてみて、「人見知りだけど、実はイイ奴な転校生」というフレーズが思い浮かびました。母国イギリスから遠く離れた日本に送られてきて、みんなが遠巻きに見ているけれど、その見た目からなかなか声を掛けにくい。でも、勇気を持って近づいてきてくれた人にはきちんと接してくれる、そんな誠実さに溢れたすごくイイ奴。
リアからの眺め。CADで生み出されるというフォルムは、実に魅力的です
最近のクルマはつまらない、欲しいと思うクルマがない。スカッとできる、刺激的なクルマに乗りたい…そうお嘆きの方こそ、アリエル・アトムとトモダチになってみてください。そして、トモダチから親友になってこそ知ることのできる世界があります。それはつまり「アリエル・アトムで攻める走りをすること」です。筆者の技量では、おそらくホンの入口を垣間見られたかどうか…にすぎないはず。ぜひ、オーナーになった方のみに許された特権を思う存分、味わってみてください。
そして、このアリエル・アトムと親友になった喜びを、ぜひこのCLでもオーナーインタビューさせてください!
[ライター・カメラ/江上透]
アリエル・アトムは、「アリエル・モーター・カンパニー」という企業が製造・販売しているクルマです。1999年に初代モデルが誕生し、改良を加えつつ現在に至ります。今回、試乗したモデルは「アリエル・アトム3」となります。6速MTに、最高出力245馬力をたたき出すホンダ製2リッターiVTECエンジンを搭載しています。内装やオーディオもちろんのこと、ドアすらもない、まさに公道を走るレーシングカートのような存在かもしれません。

クルマは乗ってみなければ分からないとよくいわれます。このアリエル・アトムも例外ではありません。むしろ、乗ってみて感動・・・どころではなく、離れがたい衝動に駆られる1台でした。

パイプフレームをまたぎ、内装とバケットシート2脚分が一体成形されたパネルの運転席側に「潜り込む」と、眼前には小さなウインドウスクリーンがあるだけ。風がダイレクトに顔面にあたりそうです。そして、視線が地面から限りなく近い。そう、これはもうレーシングカートの世界です。

6点式フルハーネスのベルトで身体をシート部分に縛り付け、ボタン式のエンジンスターターを押すと、すぐさま背後から2.0L iVTECエンジンが目覚めます。6速MTを1速に入れ、おそるおそるクラッチを繋ぐと、アリエル・アトムは事もなげにするするっと動き出します。車重600kgプラスアルファの恩恵か、最初のひと転がりからして軽いのです。

「果たしてこんなクルマ乗れるのだろうか」という不安は、1速から2速へシフトアップする頃には忘れてしまいます。それ以上に、アリエル・アトムがフレンドリーであることに、飛び上がりたいほど嬉しい衝動を抑えきれない自分がいます。MT車を抵抗なく乗れる方であれば、おそらくアリエル・アトムとはすぐに「トモダチ」になれます。

アリエル・アトムを走らせていると、いつもの道が、まるでF1 モナコグランプリのオンボード映像を観ているような錯覚に陥ります。しかし、ダイレクトに顔に当たる風が、いま起こっていることが現実だと気づかせてくれます。いつもの近所の交差点を曲がる瞬間がこれほど痛快だったとは!

道が空いたところで、アリエル・アトムの加速を試してみます。このホンダ製2.0リッターiVTECエンジン(K20Z4エンジン)の真骨頂は6,000回転から上の領域。このあたりの回転域から、タコメーターの針が7,000回転目がけて勢いを増します。と同時に、背後から聴こえてくるエンジンの音色が明らかに変わります。ホンダファンならずとも堪えられない瞬間です。

そういえば、VTECエンジンってこんなフィーリングだったなよあと、久しく忘れていた感覚が呼び起こされました。筆者が初めてVTECエンジンを体験したのは、通称「サイバー・スポーツ」と呼ばれた2代目CR-X Si-Rでした。このクルマに搭載されていたエンジンはB16A型。友人の計らいで、2速でレブリミットの7,600rpmまで「ブン回すことができた」ときの感動が甦ってきました。

アリエル・アトムを走らせていると、必然的に周囲の人の視線を集めます。そのほとんどが「何だこれ!?」といったもの。下校途中の小学生たちも歓声をあげています。こちらも調子に乗って思わず笑顔で手を振り返してみたり。確かに、戦隊シリーズの劇用車としても使えそうな佇まいです。ただ、クルマから降りようとあたふたしているあいだに敵キャラに攻撃されそうです(笑)。

アリエル・アトムは決して気難しいクルマではありません。アイドリングでクラッチを繫ぎ、アクセルを踏み込んだ瞬間から「こんなクルマ乗れるのかな…」という不安は杞憂に終わります。遠くから見ていたときは、気難しそうな、トモダチになんてなれないと思っていた転校生が声を掛けてきて、実はすごくフレンドリーなイイ奴だった、そんな場面を想像させてくれます。

アリエル・アトムで買い物に行ったり、旅行に行くのは正直なところかなり大変でしょう。しかし、アリエル・アトムでしか味わえない世界を、わずかばかりの試乗でも垣間見ることができました。そしてそれは、忘れかけていた「ただただ運転することが楽しい」感覚を鮮烈に思い起こさせてくれたのです。

アリエル・アトムの試乗を終えてみて、「人見知りだけど、実はイイ奴な転校生」というフレーズが思い浮かびました。母国イギリスから遠く離れた日本に送られてきて、みんなが遠巻きに見ているけれど、その見た目からなかなか声を掛けにくい。でも、勇気を持って近づいてきてくれた人にはきちんと接してくれる、そんな誠実さに溢れたすごくイイ奴。

最近のクルマはつまらない、欲しいと思うクルマがない。スカッとできる、刺激的なクルマに乗りたい…そうお嘆きの方こそ、アリエル・アトムとトモダチになってみてください。そして、トモダチから親友になってこそ知ることのできる世界があります。それはつまり「アリエル・アトムで攻める走りをすること」です。筆者の技量では、おそらくホンの入口を垣間見られたかどうか…にすぎないはず。ぜひ、オーナーになった方のみに許された特権を思う存分、味わってみてください。
そして、このアリエル・アトムと親友になった喜びを、ぜひこのCLでもオーナーインタビューさせてください!
[ライター・カメラ/江上透]