ドイツ現地レポ
更新2018.05.17
まさに「羊の皮を被った狼」!野心的設計のスポーツセダン、アルファロメオ・アルフェッタをドイツで見かけて
守屋 健
今回ご紹介するクルマはイタリア生まれですが、「羊の皮を被った狼」好きなドイツ人の琴線に触れるクルマであることに間違いないでしょう。凡庸な4ドアセダンのボディに、これでもか!と言わんばかりのパッケージングを詰め込んだ、1970〜1980年代前半のミドルクラスサルーン、アルファロメオ・アルフェッタ2.0です。
レースで圧倒的な成績を残した初代「アルフェッタ」
アルファロメオ・アルフェッタには、4ドアの「ベルリーナ」と3ドアクーペの「GT(もしくはGTV)」の2種類のタイプがありました。日本で今でも根強い人気がある「GT」モデルに比べると、「ベルリーナ」モデルはかなり地味な存在かもしれません。「ベルリーナ」モデルは1972年から1984年まで生産され、エンジンは1.6リッター、1.8リッター、2リッターのガソリンエンジンと、2リッターと2.4リッターのディーゼルエンジンが用意されていました。
「アルフェッタ」という名前は、イタリア語で「小さいアルファ」を意味します。もともとは1938年に登場したレーシングマシン、アルファロメオ・ティーポ158と、その発展型であるティーポ159に付けられた愛称でした。この初代「アルフェッタ」は、可愛らしい愛称とは裏腹に、アルファロメオの歴史上もっとも成功を収めたマシンとなりました。グランプリ54戦で47勝。特に1950年に始まったF1世界選手権の初年度、ティーポ158はすべてのF1規定のレースで優勝し、圧倒的な成績で最初のシリーズチャンピオンに輝くのです。
高度なメカニズムを4ドアボディに凝縮
途中、第2次世界大戦による中断が挟まるものの、10年以上の長きにわたって第一線級の実力を持ち続けた初代「アルフェッタ」。その偉大な初代の名前を引き継いでデビューした2代目アルフェッタは、外観こそ地味な4ドアセダンながら、内部にはレーシングマシン譲りのメカニズムを内包していました。
後輪のサスペンションは、負荷がかかった時のキャンバー変化を最小限に抑える、ティーポ159譲りのド・ディオン・アクスル式を採用。ギアボックスとクラッチは後輪側に配置したトランスアクスルとし、前後の重量配分を最適化、50:50を実現しました。さらに、バネ下重量を軽減するために、リアのブレーキディスクをフォーミュラカーのようにギアボックス側、つまり車体の中心に近い位置に取り付けていました。
その野心的な設計の結果、アルフェッタは鋭いハンドリングと良好な乗り心地を獲得し、当時のスポーツセダンの模範的存在となりました。そして、長きにわたって活躍したティーポ158/159同様、この時に開発されたプラットフォームは116系ジュリエッタ、90、75、SZ、そしてRZまで脈々と受け継がれていくのです。
新型ジュリアに繋がる、FRアルファロメオの系譜
しかし、アルフェッタはその基本設計の素晴らしさとは裏腹に、不十分な錆対策や弱い電気系統、雑な仕上げなどで評価を落とし、1970年代から1980年代にかけてのアルファロメオ不振の一端を担ってしまうという、不名誉なモデルとなってしまいました。現在のドイツでは、個体によっての程度の差が大きいためでしょうか、アルフェッタ・4ドアモデルの中古車価格は3000ユーロ(約39万円)くらいから2万5000ユーロ(約327万円)くらいと、かなりの開きがあります。
2015年に新型ジュリアが登場し、FRサルーンが久しぶりに復活したアルファロメオ。そのルーツのひとつにアルフェッタがあることは間違いありません。他のアルファロメオ車のような華々しさには欠けるかもしれませんが、シンプルな佇まいの中に高度なメカニズムを秘めたアルフェッタは、これからも「羊の皮を被った狼」を愛するドイツの人々の間で、静かに、長く生き続けていくことでしょう。
[ライター・写真/守屋健]