ドイツ現地レポ
更新2021.04.08
総延長1万3,183km。ドイツ人にとって「アウトバーン」とは?
守屋 健
復活祭の時期、普段なら交通量が格段に増えるドイツの高速道路・アウトバーンも、去年に続いてかなり渋滞そのものが解消されているとのこと。日本のJAFに相当するADAC(ドイツ自動車連盟)によると、2020年のアウトバーンにおける渋滞の発生件数は51万3,500件で2019年に比べて約28%減少、渋滞の長さの合計は2019年に比べて52%も減少しました。
ドイツで生活する者にとって、身近かつ重要なインフラであるアウトバーン。今回のドイツ現地レポは「ドイツ人にとってアウトバーンとは?」をテーマに、アウトバーンのこれまでとこれからについてレポートしていきたいと思います。
■年々減少するアウトバーンの速度無制限区間
アウトバーンはドイツ語でAutobahnとつづり、クルマを意味する「アウト」と道や車線を意味する「バーン」からなる単語です。現地での発音はどちらかというと「アオトバーン」に近く、日本の高速自動車国道に相当します。
ドイツのアウトバーンというと、日本では「速度無制限で無料」という面が強調されがちですが、実態はもう少し複雑です。
まずは速度に関して紹介していきましょう。アウトバーンは「速度制限区間」「天候や工事による一時的な速度制限区間」「速度無制限区間」の3つが存在し、「速度制限区間」の割合は約2割、「速度無制限区間」は約7割となっています。
ただし、この速度無制限区間においても「推奨速度」は130km/hとなっていて、ADACはドライバーに対し「思いやりのある運転を」と呼びかけています。というのは、推奨速度を大きく超えて事故を起こした場合、裁判で多額の損害賠償を求められることが多いからです。また、トレーラーを牽引している乗用車や、大型のトラックやバスといった車種の場合、速度無制限区間であっても最高速は80km/hまたは100km/hに制限されます。
近年は環境負荷低減の考え方から、速度制限区間はさらに伸びつつあります。ブレーメン州では2008年から、州内のすべてのアウトバーンが120km/h以下に制限されました。州全体で速度制限が定められたのは初めてで、以降ドイツ全土で最高速度制限を導入するかどうかの議論が活発化しています。
■激化する「アウトバーン有料化」論争
ドイツにおいて自動車業界・政治・国民を巻き込んで大論争となっているのが、アウトバーンの有料化問題です。
実は、12トン以上の大型トラックについては1995年からすでに有料化されており、2005年からはヴィネットと呼ばれる通行券式からGPSを利用した距離課金方式に変更、さらに2015年からは7.5トン以上のトラックまで課金対象車が引き下げられました。これは、大型トラックがアウトバーン自体に与えるダメージが大きいことと、周辺諸国からのトラックの通行量が増加していて道路の整備・維持費が膨大になっているからです。
また、ドイツと同じく高速道路が無料であるオランダ・ベルギー・ルクセンブルク以外の国にアウトバーンを使って通行する場合は、料金所で通行料金が徴収されたり、国境を越える前にステッカーシール状のヴィネット(通行券)をフロントガラスに貼り付けたりすることが求められます。これらのヴィネットはサービスエリアなどで購入できます。
■アウトバーン有料化賛成派or反対派の主張は?
ドイツでは、総延長1万3,183km(2020年)にもおよぶアウトバーンの環境整備や維持のためのばく大な費用を燃料や車両にかかる税金でまかなってきましたが、深刻な財政難への打開策として、これまでに何度も「乗用車のアウトバーン通行料の徴収」について検討されてきました。
アウトバーン有料化賛成派の意見としては、「財政難が解決する」「アウトバーンの交通量が減ることで渋滞が減少する」「CO2が減少し環境負荷の低減される」などを挙げています。一方、有料化反対派の意見としては「収入増はわずかで財政難の解決にはならない」「一般道や住宅地付近の渋滞が増加してしまう」「クルマの維持が難しくなり、手放す人が増えることによって、かえって経済に悪影響が出る」などと主張していました。
世論が次第に有料化優勢に傾く中、ドイツの運輸大臣は「アウトバーン通行料は、ドイツ国内でクルマ所有している場合、自動車税と相殺する」と表明。つまり、アウトバーンの通行料はドイツ国外のクルマだけに課せられると発表したのです。それに対しEU内の他国が反発。2021年現在、アウトバーン有料化についての議論はEU全体を巻き込んで継続中で、ドイツで導入される目処は今のところ立っていません。
■人々の生活の一部となっているアウトバーン
ドイツのドライバーたちは、アウトバーンに対して様々な思いを抱いています。休日にMT車でキビキビ走るのが好き、という人もいれば、怖くて仕方がないけれど仕事のために毎日渋々使っている、という人もいます。アウトバーンより田舎の一般道が好き、という人もいれば、休暇や旅行で使うたびにありがたみを感じる、という人もいます。
ドイツに住んでいて、アウトバーンについての情報をシャットアウトすることはほぼ不可能です。テレビで、ラジオで、インターネットで、アウトバーンでの事故や事件、工事の情報、そして速度制限や有料化問題が毎日取り上げられています。好き嫌いに関係なく、アウトバーンは人々の生活の一部になっているのです。
ドイツの自動車工業はもちろんのこと、流通業や旅行業など、多くの産業の礎となったアウトバーン。新型コロナのパンデミック以降、感染を恐れて自家用車を利用する人が増加しており、国内の旅行が解禁となった場合、交通量は大幅に増加すると予想されています。さらに未来の話をすれば、より環境に負担のかからない運用の仕方や、EVや自動運転車に対応した「スマートな道路」へ変化していくことが求められています。
1932年にケルンからボンの間に開通した初のアウトバーンから、あと10年強で100年。その時、アウトバーンはどのような姿に変貌しているのでしょうか。全域での速度制限?それとも有料化?今後も注意深く見守っていきたいと思います。
【ライター/守屋健】