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更新2020.10.18
実際に試乗して考えた。スポーツカーが21世紀に大進化を遂げたのはなぜか?
長尾孟大
これまでの試乗を振り返ってみて、強く感じることがある。
それは、「21世紀へと突入したことを境に、クルマの性能が段違いに向上している」ということだ。
なぜ、この時期にクルマの性能は大幅に向上したのか?今回はその真相について考察してみたいと思う。
■ボディ剛性と足回りの大幅な進歩についての考察
ひとつの大きなトピックとして「ボディ剛性が大幅に向上したこと」が挙げられる。
フェラーリF355ベルリネッタ(1994年)および後継モデルにあたる360モデナ(1999年)に試乗する機会に恵まれた。360モデナのボディ剛性の向上には、目を見張るものがあった。
360モデナには、段差やうねりの激しい路面でも運転が楽しめるほどの安心感がある。この安心感たっぷりのボディ剛性には、車体に使われる素材の進化が影響している。
当時、ボディに高張力鋼板やアルミニウムが採用されるようになり、軽量・高剛性なクルマが登場しつつあった。
このように、クルマの進化の裏側には、採用される素材の進化や、その素材を加工する製造機械の進化によって支えらている。人類の英知と工業技術の進歩が、クルマの進化にフィードバックされているのである。
また、ボディ剛性の向上は、サスペンションの設計思想の変化も起こしている。
BMW・M3におけるE36型からE46型への進化は、その最たる例であると言っても過言ではない。E36型では、ボディのねじれとサスペンションの動きが一体となり、コーナリングフォースを生み出すような挙動を生み出していた。これに対して、E46型以降のモデルは、ボディはがっちりと固定され、サスペンションジオメトリーを設計時の理想的な状態を維持するように設計されている。
ボディ剛性の進化により、サスペンションもより理想形を追求されよりスタビリティに優れたクルマが登場してきたのだ。
■効率化されたエンジンの出力向上についての考察
フェラーリ・360モデナ(1999年)のV8エンジンは、先代にあたるF355(1994年)と同じエンジンをベースにしている。にも関わらず、実際に試乗してみると、出力特性がまったく異なっている点がかなり印象的であった。低速トルクの厚みが圧倒的に増しており、まるで別物のエンジンのように感じられたのだ。
この時代は、エンジンの高出力化のために、世界の各自動車メーカーで可変機構が採用されるようになっていた。
ホンダの可変バルブタイミング機構「VTEC」をはじめ、BMWは吸気と排気のバルブタイミングを無段階で調整する「ダブルVANOS」を開発。ポルシェの「バリオカム」は、カムシャフトの位相を変化させる仕組みだ。フェラーリも、吸気管長の切替やカムシャフトの作用位相切替の機構を進化させることで、360モデナの出力アップを果たしているのだ。
この可変機構は、当初、機械的な制御であった。しかし、電子制御の技術が進化すると、コンピューター制御も加わるようになり、さらなる高出力化と省燃費化に貢献した。
■高性能で運転が楽しいクルマに共通している特徴についての考察
このように、クルマの進化の背景には、工業技術の発展によるボディ・足回りの進化が挙げられる。さらに、コンピューターの進化により、複雑な制御が可能により高出力化されたエンジンの存在があるのだ。これらの進化は、21世紀前後のスポーツカーに惜しみなく投入され、歴史に名を残す名車として結実したように思う。
これまでに試乗した輸入車のなかで運転が楽しいと思ったのは、「フェラーリ・360モデナ」「BMW・M3(E46型)」「ポルシェ・911 GT3(996型/後期モデル)」の3台である。これらのスポーツカーはいずれも異なるメーカーの車種であり、それぞれ駆動方式も、MR・FR・RRとまったく別のものだ。
しかし、いずれのクルマの運転してみると、突き抜けるようなドライビングプレジャーを体験できる。それを生み出している共通点はいったい何なのだろうか。
この3台に共通しているポイントは、やはり「21世紀前後に誕生したクルマ」という点である。360モデナのデビューイヤーは1999年、M3は2000年、996 GT3も1999年といずれも21世紀前後に誕生している。
そしてそれぞれのクルマには、際立った個性があるのも見逃せないポイントだ。
まず360モデナは、洗練されたエアロダイナミクスをもち、高速走行で他を圧倒する安定感をもつ。M3はFRスポーツの利点を活かし、優れた前後バランスによりどこまでも曲がれるような未曽有のコーナリング感覚を味あわせてくれる。996 GT3は、ポルシェ独特のピッチングを使って姿勢をコントロールする面白さを秘めている。
これら3台はまったく異なるバックグラウンドとキャラクターをもっている。いずれのクルマも迫力のパワーとサウンドで、その世界観に没入させてくれるのだ。非日常体験が好きな人にとっては、これほど面白いクルマはないだろう。
そして、この時代のクルマにはしっかりとしたシャシー性能と素直な応答性が備わっている。一昔前だと、操る楽しさを堪能するにはハードルが高すぎるほどのパワーであっても、この時代以降のクルマならば安心感をもって楽しむことができるのだ。
■余談:さらに20年後、21世紀前後の名車はどのように評価されるのかについての考察
2020年現在、上記で述べたようなクルマが登場してから約20年が経過した。さらに20年が経過した2040年頃の世界では、これらのクルマはどのような評価を得ているのだろうか?
まず2040年の世界では、自動運転が現在よりも確実に普及しているであろう。そして2030年を境に、一部の国ではガソリン車の販売が停止されるので、世界的にEV化が大幅に進展しているに違いない。
現時点でさえ、上記のような官能的なエンジンを搭載するクルマは貴重であるから、さらに20年後の世界ではさらに特別な存在になっているであろう。しかし、クルマの性能やエンジンが進化したいまも旧車を楽しむクルマ好きは多い。そのクルマにしかないドライビングフィール・歴史的背景に特別な価値を見いだしているからだ。
いまから20年後の世界でも、上記で挙げたようなクルマは希少な体験をもたらしてくれる存在として、リスペクトされ続けるであろう。
■まとめ「21世紀を境に、クルマはなぜ大進化を遂げたのか?」
「21世紀を境に、クルマはなぜ大進化を遂げたのか?」
この疑問に対する筆者の経験に基づいた見解を述べさせていただいた。
これまでに熟成されてきた工業技術が結実し、ボディ剛性や足回りの改善・エンジン出力の効率化といった形でクルマにフィードバックされた。それが、この時期のクルマの大進化の秘密であると考えている。
筆者自身、1980年代~2000年代の輸入車のスポーツモデルを網羅的に試乗できるという大変ありがたい機会のお陰で、この時代の自動車に対する理解を深めることができている。
しかし、自分が試乗して感じたクルマの個性や乗り味を、視聴者に対して言葉や映像だけで伝えていくことは非常に難しい。それぞれの車種がもっている独特の世界観・エンジニアによって込められた想いは、実際に運転して五感で感じてみなければなかなか理解しづらいものだ。それを実際に体験できる機会に恵まれることは人生にそう多くはないだろう。
そして、10年・20年が経過すれば、その体験の希少性はなおさら高まっていくに違いない。
だからこそ、私の体験を視聴者に分かりやすく、より解像度を高めて伝えていくことが私の使命であり、そのために必要な努力を惜しまずに励みたい構えだ。
[ライター・カメラ/長尾 孟大]