更新2024.05.28
街にAMG仕様があふれていた?バブル期の輸入車にまつわる7つのキーワードとは
松村 透
「六本木のカローラ」「小ベンツ」「自動車電話」など、バブル期を知る人にとっては懐かしいキーワード、そしてほろ苦い思い出があるかもしれません。その一方で、バブル期を知らない世代の方にとっては「自分の親世代は若いときに何やってたんだか…」と思われても仕方がありません。
しかし、本当にこんなことがわずか30年前の日本で起こっていたのです。そこで「バブル期の輸入車にまつわる7つのキーワードとは?」と題して、当時を振り返ってみましょう。
■1.六本木のカローラ(BMW 3シリーズ)
当然ながら六本木にカローラがあふれていた…わけではありません。当時のBMW 3シリーズ(E30型)が、まるでカローラのように、六本木をはじめとする都内を走り回っていたのです。それこそ大学の合格祝いにパパ(実の父親)に買ってもらったり、新社会人が60回ローンを組んで、いまでは考えられないような金利を払ってBMWに乗っていたのですから。セダンよりはクーペ、クーペよりはカブリオレ、318よりは320、320よりは325。さらにM3ともなれば周囲の見る目も変わる。いわゆる見栄ってやつです。
そういえば、私の高校の担任の先生も4ドアの320iに乗っていました。女性で、サングラスを掛けて赤いBMWに乗って颯爽と通勤する姿(県立高校ですが)は実にカッコよかったです。そして、ときどき街中で見掛けるE30型。スマートで適度にクラシックで、実にカッコいいんですよね。
■2.小ベンツ(メルセデス・ベンツ 190Eシリーズ)
いまでこそ、名車の誉れ高いメルセデス・ベンツ190Eシリーズ。バブル期にはAクラスやBクラスなんてありませんから、メルセデス・ベンツのエントリーモデルといえば190Eシリーズだったわけです。エントリーグレードであれば車輌本体価格が400万円を切るモデルもあり、メルセデス・ベンツの大衆化の役目を果たしたともいえます。
運転に不慣れだったり、大柄なクルマの運転が苦手な女性でも扱えるということで、190Eは人気を博します。ご主人はメルセデス・ベンツSクラス(V126)。奥さまが190E。大学生のお嬢さんがアウディ80…。まるでヤナセライフを地で行くようなお金持ちが実在しました。それがいつしか「小ベンツ」と揶揄されるように…。実際に乗ってみると内装なんて素っ気ないと思うかもしれませんが、とにかくかっちりとしていて「ザ・ドイツ車」の世界を堪能できる本当にいいクルマです。
■3.自動車電話
バブル期のステータスシンボルのひとつが、センターコンソールや助手席に専用の置き台を設置して使う自動車電話。トランクには自動車電話用のアンテナが誇らしげに装着されます。このアンテナも、見た目ソックリのダミー品が大流行しました。
当時の自動車電話はレンタル制。保証金が20万円、加入料が8万円、毎月の基本料金が3万円。さらに通話料は6秒につき10円。こういってはナンですが、メールすら使えない通話するだけの機能でこれだけの費用が発生したわけです。このコストを臆することなく負担できる…お金持ちでなければできません。
■4.最上級グレード
メルセデス・ベンツ300SEよりは420SEL、500SEよりは560SELがエライとされ、とにかく「最上級グレード&フルオプション仕様が至高」とされた時代でした。当時、1000万円を優に超えるV126型の560SELの遭遇率の高さたるや…。もちろんボディカラーは定番の「ブルブラ」ことブルーブラック。W/V126型の後継モデルであるW140型ではついに12気筒エンジンを搭載した600SELがデビューし、衝撃を受けたものです。
そのおかげで、当時憧れたけど手に入れられなかった人が運良く程度の良い個体をゲットできているわけです。ファーストオーナーに感謝ですね。1990年代半ば、アルバイト先でまさに「ブルブラの560SELの中古車」を運転しましたが、たしか「380万で買うか?」とショップの人からいわれた記憶があります。当時ハタチ。60回ローンを組んでも変えるはずもなく…。
■5.AMG、ロリンザー、アルピナ、シュニッツァー、ケーニッヒ「仕様」
コンプリートカーが手に入らない、あるいは高すぎて手が届かない…。そこでノーマルのクルマをベースにドレスアップしていくことになります。ボディにエンブレムだけを装着した「お手軽仕様」から、ホイールやエアロ、マフラー、そして足まわりなど…。もはやコンプリートカーと判別がつかないほど手を加えた「完コピ仕様」まで。それはまさにピンキリの世界。しかし、あくまでも「仕様」です。それはオーナーである本人がもっとも理解している点であり、同時に葛藤しているのです。「やっぱりコンプリートカーに乗りたい」という本心と。
あるとき「仕様」では飽き足らず、このクルマを下取りに出し、ついにコンプリートカーを手に入れてしまいます。そしてこうつぶやくのです「はじめからこうすれば良かった」と…。
■6.プレミア価格
フェラーリF40が2億4千万円、テスタロッサが5000万円、ランボルギーニディアブロやポルシェ959が1億円など…。当時、スーパースポーツと呼ばれたクルマは軒並み高騰していました。しかしいまや、この時代のスーパースポーツモデルは軒並みバブル期の相場を大幅に超えた価格帯で取引されています。「F40が3000万円台、テスタロッサが500万円弱で購入できたときに買っておけばよかった…」と嘆きたくなる気持ちも分かりますが、それでも高額車であることに変わりはありません。
■7.輸入車といえば左ハンドル
最近は左ハンドルの設定がなく、右ハンドル仕様のみの輸入車も増えてきました。しかし、バブル期の輸入車といえば左ハンドルが基本でありステータスシンボル。本来であれば右ハンドル仕様が輸入されてしかるべきイギリス車も左ハンドルでした。せっかく輸入車を買うのだから左ハンドル仕様を選びたい。でも右ハンドルしか設定されていない…。そんなことにモヤモヤするのは当時を知っているからでしょうか。ちなみに、中古車業界に籍を置く友人に話を聞くと、左ハンドル仕様の方がリセールバリューがいいということです。
■まとめ:輸入車というより外車という響きの方がしっくりくる?
輸入車というより外車という響きの方がしっくりきたこの時代。いま以上に憧れの存在であり、ステータスシンボルでした。貴重な輸入車が次々に日本に上陸し、ガレージへと収まっていったのです。酷使された個体は姿を消してしまいましたが、運良く丁重に扱われた個体はミントコンディションを維持して次の世代へと受け継がれていったのです。
やがて外国人のバイヤーが日本国内に生息する貴重な輸入車を買い漁っていくようになります。海外ユーザーのSNSで自分の元愛車が海外へと流れていったことを知った人もいるはずです。いちど国外へ飛び出した個体が再び日本の地に足を踏み入れる確率はかなり低いことが予想されます。1台でも多くの貴重な輸入車が国内に留まることを祈るばかりです。
[画像・Mercedes-Benz、BMW、Porsche・ライター&撮影/松村透]